講義内容詳細:複製文化論

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年度/Academic Year 2019
授業科目名/Course Title (Japanese) 複製文化論
英文科目名/Course Title (English) Replication and Culture
学期/Semester 後期 単位/Credits 2
教員名/Instructor (Japanese) 宮澤 淳一
英文氏名/Instructor (English) MIYAZAWA, Junichi

講義概要/Course description
 私たちが「文化」として考える表現行為やその作品形態は,「今・ここ」の時間的・空間的一瞬で終わってしまい,一度しか体験できないものと,記録・保存・複製され,時間と場所を変えて何度でも体験できるものとに分けることができます。「複製文化」とは,おそらく,後者を指します。そこには各種のメディアが介在しますから,「メディア文化」と「複製文化」には本質的な関係がある,と推察できるでしょう。
 この講義では,電子メディアの拓く未来を信じて,コンサート活動をやめてレコーディングに専念したカナダのピアニスト・思想家グレン・グールド(1932‐1982)を対象に据えて,「複製文化」について考えます。具体的には,彼の音楽メディア論の仕事(論考やインタヴュー,ラジオ=テレビ番組など)を年代順に精査していきます。必然的に彼の生涯や演奏も考察に関わってきます。また,音楽やメディアをめぐる各種の思想――ハンスリックの音楽美論,アドルノの大衆音楽批判,マクルーハンのメディア論,ベンヤミンの「アウラ」,バルトの「プンクトゥス」の議論など――は,その途中に織り込まれていくことになります。
 今年度の本講は「総論」ではなく,「各論」です。一人の人物に焦点を定めたため,マニアックな内容にも及びます。しかし研究の実証主義的プロセスの現場の有り様ですから,我慢して(ときに呆れつつも),研究の「わざを盗む」つもりで話についてきてください。
達成目標/Course objectives
 グレン・グールドの生涯と彼の演奏と音楽メディア論を年代順にたどりながら,複製文化・芸術の諸問題を考える基礎的な発想を学び取る。
履修条件(事前に履修しておくことが望ましい科目など)/Prerequisite
 一見トリヴィアルと思われるような議論に関心を持てること。
授業計画/Lecture plan
1
授業計画/Class  ガイダンス(複製文化・芸術とは何か,なぜグレン・グールドを論じるのか)
事前学習/Preparation  (グレン・グールドについて,自分なりに調べておく。)
事後学習/Reviewing  〈本当に履修するかを決める。履修する場合は,教科書を購入する。〉
2
授業計画/Class  地域的・歴史的・文化的背景とグールドの生涯
事前学習/Preparation  (配付資料の読み込み。)
事後学習/Reviewing  〈追加の配付資料の読み込み。〉
3
授業計画/Class  拍手禁止コンサート(1962年)
事前学習/Preparation  (教科書第1章第1節,5-37頁,の読み込み。)
事後学習/Reviewing  〈追加資料の読み込み。〉
4
授業計画/Class  引退と「電子時代の音楽論」(1964年)
事前学習/Preparation  (教科書第1章第2節,38-51頁,の読み込み。)
事後学習/Reviewing  〈追加資料の読み込み。〉
5
授業計画/Class  論文「レコーディングの将来」(1966年)
事前学習/Preparation  (教科書第1章第3節,52-68頁,および,配付資料の読み込み。)
事後学習/Reviewing  〈追加資料の読み込み。〉
6
授業計画/Class  対位法的ラジオ・ドキュメンタリー「北の理念」(1967年)
事前学習/Preparation  (教科書第3章第5・6節,281-319頁,の読み込み,および,録音の試聴。)
事後学習/Reviewing  〈追加資料の読み込み。〉
7
授業計画/Class  インタヴュー「コンサート・ドロップアウト」(1968年)
事前学習/Preparation  (教科書第1章第4節,69-83頁,の読み込み,および,録音の試聴。)
事後学習/Reviewing
8
授業計画/Class  テレビ番組「よい聴き手」(1970年)
事前学習/Preparation  (教科書第1章第5節,84-100頁,の読み込み,および,映像の鑑賞。)
事後学習/Reviewing  〈追加資料の読み込み。〉
9
授業計画/Class  ラジオ番組「ザ・シーン」(1972年)
事前学習/Preparation  (教科書第1章第6節,101-15頁,と,配付資料の読み込み,および,録音の試聴)
事後学習/Reviewing  〈追加資料の読み込み。〉
10
授業計画/Class  映像作品「錬金術師」(1974年)
事前学習/Preparation  (配付資料の読み込み,および,映像の鑑賞。)
事後学習/Reviewing  〈追加資料の読み込み。〉
11
授業計画/Class  小論「アウトテイクの芝生はいつも青い」(1975年)
事前学習/Preparation  (配付資料の読み込み。)
事後学習/Reviewing  〈追加資料の読み込み。〉
12
授業計画/Class  ユーディ・メニューインとの対話(1979年)
事前学習/Preparation  (配付資料の読み込み,および,映像の鑑賞。)
事後学習/Reviewing  〈追加資料の読み込み。〉
13
授業計画/Class  「創造的な聴き手」論(1982年)
事前学習/Preparation  (教科書第1章第7節,116-29頁,および,配付資料の読み込み。)
事後学習/Reviewing  〈追加資料の読み込み。〉
14
授業計画/Class  グールドの「死後の生」をめぐって
事前学習/Preparation  (配付資料の読み込み,および,録音の試聴)
事後学習/Reviewing  〈追加資料の読み込み,および,期末レポートの準備。〉
15
授業計画/Class  グールドから離脱して(まとめと補足)
事前学習/Preparation  (配付資料の読み込み。)
事後学習/Reviewing  〈追加資料の読み込み,および,期末レポートの準備。〉
授業方法/Method of instruction
 講義形式を基本とするが,必ず出席者の意見を問う。録音や映像を授業時間外に視聴したり,各種の資料(未邦訳の英文資料を含む)を事前に読んできてもらうこともあるので,それ相応の予習の時間を確保(覚悟)すること。
成績評価方法/Evaluation
1 レポート Report 100%  期末レポート(または期末試験)と随時のレスポンス・シート(またはミニ・レポート)による。期末レポート(または期末試験)を100点満点で採点し,レスポンス・シートを未提出の者・遅れて提出した者,内容に不満足な点のある者については,最大25点をもって,そこから減ずる。期末レポートを課すか,期末試験を課すかは,履修者の人数と予備知識の程度に基づいて決める。
教科書/Textbooks
 著者名
Author
タイトル
Title
出版社
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出版年
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1 宮澤淳一 『グレン・グールド論』 春秋社 2004年。 そのほかハンドアウトを適宜配付する。
参考書/Reference books
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1 以下、邦語文献のみ掲げる。ティム・ペイジ編 『グレン・グールド著作集』(全2巻) 野水瑞穂訳。みすず書房, 1990年。/ ジョン・ロバーツ編 『グレン・グールド発言集』 宮澤淳一訳。みすず書房,2005年。/ ジョナサン・コット 『グレン・グールドは語る』 宮澤淳一訳。ちくま学芸文庫,2010年。/  ギレーヌ・ゲルタン編 『グールドのシェーンベルク』 鈴木圭介訳。筑摩書房,2007年。/ ジョン・ロバーツ,ギレーヌ・ゲルタン編 『グレン・グールド書簡集』 宮澤淳一訳。みすず書房, 1999年。/ オットー・フリードリック 『グレン・グールドの生涯』(改訳版) 宮澤淳一訳。青土社,2002年。/  ピーター・オストウォルド 『グレン・グールド伝』 宮澤淳一訳。筑摩書房,2000年。/ ケヴィン・バザーナ 『グレン・グールド神秘の探訪』 サダコ・グエン訳。白水社,2008年。/ アンドルー・カズディン 『グレン・グールド アットワーク』 石井晋訳。音楽之友社,1993年。/ ジェフリー・ペイザント 『グレン・グールド、音楽、精神』 宮澤淳一訳。音楽之友社,2007年。/ ケヴィン・バザーナ 『グレン・グールド 演奏術』 サダコ・グエン訳。白水社,2000年。――そのほか適宜紹介する。
メッセージ/Message
 授業で教科書の内容を逐語的に論じることはしません。指定する箇所を読んでくることを前提に,踏み込んだ議論をしたり,別の資料をもとに議論を深めたりします。英文のテキストも読む可能性があります。グールドが生涯を送ったトロントでの最新の資料調査の成果も盛り込む予定です。
その他/Others
 提出物(レスポンス・シートや試験の答案)はすべてペン書き。鉛筆・シャープペンシル書きは無効。
キーワード/Keywords
複製     複製芸術     録音     レコーディング     演奏会(コンサート)     映像     メディア論     マーシャル・マクルーハン     AI(人工知能)     カナダ     カナダ研究     アイデンティティ