講義内容詳細:マクロ経済学Ⅱ

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年度/Academic Year 2020
授業科目名/Course Title (Japanese) マクロ経済学Ⅱ
英文科目名/Course Title (English) Macroeconomics Ⅱ
学期/Semester 後期 単位/Credits 2
教員名/Instructor (Japanese) 仙波 憲一
英文氏名/Instructor (English) SEMBA, Ken-ichi

講義概要/Course description
 生活の基盤となる仕事も学校も多くの生活に必要な活動が制限された。人間と社会にとっての有史以来の大きな危機に我々は直面している。商店や企業が販売活動や生産活動を取りやめ、消費者の行動が一変した。他方、働く者の収入が激減し、明日の生活に苦しみ、行き先に不安を抱き見通しのきかない社会となった。
 このような時、我々はこれまで築いてきた社会の様々な制度や仕組み、取り決め、ルール等を改めて見直し、何をどう修正し、ポストコロナの新しい持続可能な社会の構築に向けて知恵を絞らなくてはいけない。
 この視点の中心に置くべき認識は、まず生活する上で健康であること。従来はとかく健康であることが当たり前として議論しがちであったが、今回の経験で改めて個人の健康と社会の健全さが人間社会の営みの大前提であることに気づかされた。次に生活をするための所得収入があること。今日の貨幣を媒介とした取引制度下での生活には労働をして所得を稼ぐことは必須である。この二点を踏まえた上で、人間が安全で安心して暮らせる社会、すなわち望ましい社会の仕組みと制度を構築する必要がある。
 では望ましい社会とは何か。どのような条件を満たせば望ましい社会といえるのであろうか。これらに関するこれまでの大学での学びと研究を改めて批判的に見直す必要がある。なお批判的とは、何でもかんでも否定するのでなく、これでいいのか、信頼できるのか等々の疑問を持つことである。培われ継承されてきた原理や原則にまつわる様々な論理を、つまり考え方の筋道をそのまま受け入れるのではなく、一旦立ち止まり点検する視点を持つことである。本来学問は、人間社会の豊かさ幸福とは何かという本質的な問題を、時には哲学的に理念的に考えるものであり、同時に豊かに安全に安心に生活ができるための仕組みや制度や方策を考えるものである。
 批判的視点は新たな視点・論理を生みだす創造的視点に至る出発点であり、「マクロ経済学」に対して、その考え方を知るとともに、どうして・なぜ・納得がいかない・筋道がおかしい等々の批判的視点から学んでいって欲しい。目指すべきは、マクロ経済学の考え方、分析手法、論理体系を学ぶことで、よりよい社会を構築するために社会をどうデザインしたらよいのかを考え、最終的には学生個人が一人の社会人としての見識を持ち、現代社会を批判的に考察できる目を養うことである。
 前期のマクロ経済学Ⅰではマクロ経済学の短期のおける基本的考え方と論理構造について学んだが、後期のⅡでは経済成長論、国際経済取引等の経済活動を分析して、通年でマクロ経済学全体を俯瞰する。具体的にはマクロ経済学の初級から中級レベルまでを理解できるように説明したい。
 一国のみならず世界の経済活動が安定的に発展しているか否かを問うとき、経済活動を特徴づける重要な要素である人・モノ・カネを取引する市場に注目することが重要である。
 特に、労働市場・財市場・金融市場での価格(賃金・物価・金利)と数量(雇用量・GDP・貨幣量)が、他市場との相互依存関係を調整して、世界の経済規模を決定するメカニズムを知ることが不可欠である。まず、各市場の特性を知り、次に市場間での相互関連のありようを知り、最終的には市場間の相互調整プロセスを通じて、経済全体がどのように調和的に推移していくかを検討する。後期は長期的視点と国際的視点を加えて、カレントなトピックを意識しつつ、マクロ経済理論が現実社会を理解するのに、特に経済政策の目的とその効果を考察するのに極めて有効な学問であることを議論したい。



達成目標/Course objectives
マクロ経済学全般の理論的枠組みを理解し、世界経済並びに日本経済に対して自分なりのビジョンをもてるようになる。つまり、経済学の考え方、分析手法、論理体系を学ぶことで、よりよい社会を構築するために社会をどうデザインしたらよいのかを考え、最終的には学生個人が一人の社会人としての見識を持ち、現代社会の仕組みはこれでいいのかという批判的に考察できる目を養うことを目指す。
履修条件(事前に履修しておくことが望ましい科目など)/Prerequisite
マクロ経済学Ⅰ 経済学入門(ミクロ)
授業計画/Lecture plan
1
授業計画/Class ガイダンス:マクロ経済の課題解決に臨む基礎的な短期マクロ一般均衡モデルの考え方を復習する。その際、市場間の相互依存関係をマクロ経済学はどのように捉えようとしているかを概括し、今後の講義の流れを示す
事前学習/Preparation マクロ経済学が解決しようとする経済課題にはどのようなものがあるか調べる
事後学習/Reviewing 基礎的な短期マクロ一般均衡モデルの視点についてまとめる
2
授業計画/Class 短期的マクロ経済学の復習:短期における総需要側面からのマクロ経済規模の決定プロセスをIS-LMモデルを通じて説明する。まず有効需要の原理に基づき、過少雇用均衡を解消するために政府の積極的市場介入政策を容認するケインズ型の考え方に基づいたIS-LM曲線の形状について説明する。他方、供給は自らの需要を作り出すとの原理を前提とする新古典派の経済観を説明し、価格の伸縮的調整から市場均衡が導かれ、ケインズ型のIS-LM曲線とは異なる形状となることを説明する。これから新古典派の政策論は政策無用論となることを理解する。両者の経済観の違いを踏まえ、いかなる経済的局面において両者の経済観並びに政策論が妥当するのかを議論する
事前学習/Preparation ケインズ的経済観と新古典派的経済観の違いについて調べる
事後学習/Reviewing 政策論の視点から、両派の政策論への考え方の現実的妥当性について考える
3
授業計画/Class  AD-ASモデルの復習: ケインズ的視点と新古典派的視点から総需要関数ADと総供給関数ASを導出し、その形状について両派での違いを理解する。これに基づき、物価とGDPの同意決定メカニズムを説明し、物価の安定と持続的経済発展を実現するための政府および中央銀行の役割と政策手段とその有効性について議論する
事前学習/Preparation ADとASの導出プロセスについて調べる。そのうえで、財政政策の目的と政策手段、並びに財源問題について調べる。また金融政策の目的と手段、並びに日銀の政策理念について調べる
事後学習/Reviewing 物価とGDPの同時決定プロセスについてまとめ、政府の役割と財源制約下での財政政策の在り方、中央銀行の役割と金融政策の有効性について考える
4
授業計画/Class AD-ASモデルによる政策効果分析: ADとASのシフト要因には外生的経済変数、特に政策変数がシフト変数となるので、政策に関連して各曲線のシフト状況を検討することで政策の有効性を分析する。これを通じて、政策財源の問題、世代間での所得再配分問題、働き方改革等の諸政策にまつわる論点を説明する
事前学習/Preparation 現在日本で行われているマクロ経済政策について調べておく
事後学習/Reviewing 実施されている政策の有効性についてまとめて政策の有効性について意見を持つ
5
授業計画/Class 景気循環と政策論争: 景気循環をもたらすインフレ率と失業率との関係についての論争とそれに関連する景気対策について議論する。
 まずインフレ供給曲線を用いてインフレ政策にまつわる実証的かつ理論的視点からの議論を検討する。実証的側面からはフィリップス曲線やオークンの法則からインフレ率と失業率とのトレードオフ関係の理論を理解する。次にこれに否定的で貨幣錯覚を導入した理論的考察について検討し、政策的視点から果たして景気対策としてのインフレ政策は有効か否かについて議論する
事前学習/Preparation インフレ供給曲線の導出について調べておく
事後学習/Reviewing インフレ政策やデフレ政策について政策の有効性についてまとめる
6
授業計画/Class 成長論Ⅰ(ケインズ型成長モデル):経済活動の中に初めて明示的に時間を導入し、経済活動の時間的変化に対するダイナミズムについて考察する。この代表が経済成長論で、経済成長の意義と成長理論の変遷について説明する。まずフロー変数とストック変数を区別し、静学的マクロモデルに時間の概念を導入し、資本蓄積行動が一国経済の規模の拡大にどのように貢献するかを考える。また国内経済の成長が持続的かつ安定的に推移するための条件を検討する。このために、生産要素間の価格調整が緩慢なケインズ型不均衡モデルを発展させて、投資の生産拡大効果と需要創出効果が経済規模の拡大に果たす役割を検討して、経済発展に潜む不安定要因について理解する。このことから、経済発展が安定的に推移する条件について議論する
事前学習/Preparation 価格調整の緩慢さを特徴とする静学的ケインズモデルに資本蓄積を導入し動学化した、古典的成長論について調べる
事後学習/Reviewing 経済成長の意義と成長論の理論的発展についてまとめる
7
授業計画/Class 成長論Ⅱ(新古典派成長モデル):価格調整が柔軟に行われ、国内市場の均衡が常に保たれることを想定した新古典派モデルに、生産要素間の代替可能性と資本蓄積行動を導入し、動学化したソローの成長モデルについて説明する。同時に持続的発展のメカニズムを理解しつつ、国家間での成長格差の原因を解明するには依然として有効なモデルではないことを説明する
事前学習/Preparation ソローの成長論について調べる
事後学習/Reviewing ケインズ的成長論とソローの成長論の違いについてまとめ、経済発展が安定的に推移するための条件を理解する
8
授業計画/Class 成長論Ⅲ(内生的成長モデル):国家間の成長格差の要因分析が困難であった理由の一つに技術進歩に関する研究不足があった。すなわち、従来の成長論では生産技術は外生的な存在であったが、経済発展に伴い技術革新が生み出され技術が内生化され、これが経済のさらなる発展に貢献することを証明した内生的経済成長論について議論する。企業の研究開発(R&D)投資が一企業に限られず、やがて知的公共財となり、経済外部性により国家間の技術格差、経済発展の格差解消に資することを理解する
事前学習/Preparation 経済学において生産技術についての取り扱い方についてまとめ、技術革新と経済成長の関係について調べる
事後学習/Reviewing ソローの成長論と内生的成長論との違いについてまとめる
9
授業計画/Class 成長論Ⅳ(技術開発と経済発展):現代のマクロ経済問題を解明するための理論的新展開について説明する。時に技術開発競争にみる先進国のR&D投資の意義、技術格差に起因する国際間の経済格差の発生と対策、国際間の人的移動による経済発展格差と所得格差の解消、さらには労働移動規制問題等について議論する
事前学習/Preparation 発展目覚ましい技術開発における日本および世界が直面するマクロ経済問題について調べる
事後学習/Reviewing 現代のマクロ経済問題を解明するための理論的新展開についてまとめる
10
授業計画/Class 開放経済分析Ⅰ(対外勘定):オープンマクロ経済学の基礎的理論構造について説明する。貿易収支、経常収支、資本収支、国際収支等の対外勘定について学んだうえで、諸外国との経済取引が国内経済へいかなる影響を与えるのかについて、特に3つの視点から検討する。1.物や人の移動にかかわる国際収支の変動要因と決定条件、2.貨幣的分野である為替レートの決定原理をフロー側面とストック側面から理解する、3.国内の金融財政政策等の経済政策効果の有効性について理解する。これらを踏まえ、国際金融制度の在り方、国際政策協調の在り方について議論する。まずは国際収支の変動要因と決定要因から説明する
事前学習/Preparation 国際収支表の表記と海外取引との関係について調べる
事後学習/Reviewing オープンマクロ経済学の基礎的理論構造についてまとめる
11
授業計画/Class 開放経済分析Ⅱ(国際収支):国際収支の決定要因と変動要因について説明する。初めに、貿易収支と資本収支と国際収支との関係について理解する。次に、輸出関数と輸入関数を導出したうえで、人とモノの国際移動と貨幣変数である輸出入価格との関係を表す経常収支の決定条件と変動要因を説明する。次に、為替変動が経常収支に与える影響について理解して、貿易市場と為替市場での経済変動に対する反応の違いから経常収支の変動が生じることを説明する
事前学習/Preparation マーシャルラーナー条件等の国際収支の4つの決定論について調べる
事後学習/Reviewing 国際収支の決定要因と変動要因についてまとめる
12
授業計画/Class 開放経済分析Ⅲ(為替市場):為替レートの決定要因と変動要因について説明する。長期的視点から見た為替レートの決定論はいわゆる購買力平価説が代表的である。これに対してフロー変数たる輸出入の動向により為替が変動すると考えるフローアプローチと、為替レートは資産取引の中で決定されるとみなすストックアプローチが代表的である。後者は資本自由化に伴い注目を集めてきた。さらに貨幣的要因により為替取引が説明されると考える貨幣的アプローチ、効率的市場仮説に基づき市場に情報として流される世界情勢が為替の変動を引き起こすと考えるニュースの理論等があることを説明する。なおオーバーシューティングモデルを説明することで、為替の決定と変動要因についてのマクロ経済学の包括的解釈論について説明する
事前学習/Preparation 為替レートの主要な決定論について調べる
事後学習/Reviewing 為替レートの決定要因と変動要因についてまとめる
13
授業計画/Class 開放経済分析Ⅳ(国内政策と対外政策):開放経済に移行した時、閉鎖経済下で見られた金融・財政政策の有効性が持続されるのか否かについて、ケインズ型の短期静学モデルを用いて考察する。IS-LMモデルをオープン化したマンデル・フレミングモデルを説明する。この結果、経済がオープン化されることで、オープン前とは異なる政策効果が得られることを説明する
事前学習/Preparation マンデル・フレミングモデルについて調べる
事後学習/Reviewing オープンマクロ経済下の金融財政政策の有効性についてまとめる
14
授業計画/Class 開放経済分析Ⅴ(国際マクロ政策):経済がオープン化されると為替レートの安定性、国独自の金融政策の実施、資本移動の自由化が同時に達成ができないといういわゆる国際金融のトリレンマの存在について説明する。このことを踏まえ、適正な通貨圏の在り方、地域間の経済連携の在り方、さらには国際マクロ政策の協調問題等について議論する
事前学習/Preparation 国際金融のトリレンマについて調べる
事後学習/Reviewing 現代の国際金融上の問題点をまとめる
15
授業計画/Class マクロ経済の課題:マクロ経済学の視点から現在の日本経済を俯瞰し、日本の将来像について検討する
事前学習/Preparation 日本が現在直面してる経済課題にはどのようなものがあるか調べる
事後学習/Reviewing 日本の今後と将来についての自分の意見をまとめる
授業方法/Method of instruction
 本来は教室で対面式で板書をしながら受講生と議論をしつつ、経済学への理解を深めるのが望ましいと考えているが、これが今回は不可能なので、online方式で行い、必要に応じてリアルタイム型、オンディマンド型、自己学習型を取り入れる。なおオンライン方式なので内容を十分理解をするために復習を大事にしたいので、シラバスの実施内容の取捨選択や進めるスピードに遅れが出る可能性があることをあらかじめ承知しておいて欲しい




成績評価方法/Evaluation
1 レポート Report 100%    期末レポートと複数回の期間中レポートを課す。課題に対していかに考えているのかを重視する。具体的にはマクロ経済学に対する理解度を測るための問題と、現代社会が抱える諸問題について経済学的視点からいかに考察できているのかを測るための課題からなる。成績は期末レポートを60%、適宜出すレポートの平均点を40%の割合で評価したものの総合計で評価する




メッセージ/Message
 入門程度の基礎知識があれば良い。むしろ、社会の変化や諸状況に対して関心を持っていることが大切である。真面目に学ぶ意欲のある学生のみ履修すること。なお、マクロ経済学ⅠとⅡでマクロ経済学全体を学ぶので、ⅠとⅡを通して初めてマクロ経済学全体を学ぶことができるので、両方を履修することが望ましい。
  教科書は受講生のレベルに応じて、適切なものを紹介する。公務員試験、各種資格試験等の試験対応を希望するのであれば、それに対しても適宜個別に対応する。