講義内容詳細:イスラム文化論/イスラム文化総論

戻る
年度/Academic Year 2020
授業科目名/Course Title (Japanese) イスラム文化論/イスラム文化総論
英文科目名/Course Title (English) Islamic Studies
学期/Semester 前期 単位/Credits 2
教員名/Instructor (Japanese) 山﨑 和美
英文氏名/Instructor (English) YAMAZAKI, Kazumi

講義概要/Course description
 現代の国際社会における平和的共存、異文化理解、宗教間対話といった諸問題を考える上で、13億人以上の信徒を持ち、世界中に拡大するイスラームに関し、正しく客観的に理解することが必要不可欠です。
 この講義では、イスラームの教義や世界観について知ると共に、ムスリム(イスラーム教徒)の人々の日常生活や文化など現実の姿を、偏見を持つことなく理解することを目的とします。イスラームと関わりの深い中東の歴史、政治、社会、文化について基本的知識を持つことも目標です。

 現代のアジアの中でも特に、イスラーム地域に関しては紛争や不安定な状況が続き、民主化が進まない国々が少なからず存在しています。特に注視しなければならないのは、過去の歴史的経緯が現代の諸問題に影響している場合がほとんどだということです。かつて「西洋近代」という外的要素が流入してきた時に、現地の既存社会がどのように反応したのか検証し、「西洋近代」との遭遇がアジアの各地域にどのような影響を与え、現代に至っているのかを考察していきます。イスラーム地域を例にあげると、既存の社会に属する人々が、イスラーム法(シャリーア)に基づく伝統的社会規範とどのように折り合いをつけながら、近代化や改革を図っていったのかが主な検証課題となります。

 具体的には、下記3つの項目に関して講義します。

項目A;イスラーム世界全般[イスラームの歴史、イスラーム神秘主義と聖者崇拝、イスラーム法と六信五行・宗教儀礼、イスラームの各宗派とシーア派の世界観、イスラーム復興運動(「イスラム原理主義」)、女性と婚姻・ヴェール、など]

項目B;イランの社会と文化(「近代化」の時代、イラン革命と現代、イラン型大衆運動への女性参加、映画に見る女性と若者、など)

項目C;国際関係[現在の中東をとりまく国際問題、パレスティナ(中東和平問題)、歴史的シリア地域(シリア、ヨルダン、レバノン)、コーカサス(チェチェン他)などの旧ソ連圏、アフガニスタンとイラク、など]

 本講義では、中東・イスラーム諸国に居住する一般の人々の日常生活や文化、世界観などについて、具体的に理解してもらうことを目指します。そのため、映画などの映像、写真、音楽、芸術・工芸品、衣服など、様々な視聴覚資料を使用します。
達成目標/Course objectives
 イスラーム世界の多様な文化や、イスラーム諸国をとりまく国際問題について理解することを目指します。

達成目標
1.中東を主とするイスラーム地域における多様な文化・社会の実像、宗教儀礼と日常生活、イスラーム地域に関連する様々な国際問題、について理解することを目的とします。

2.国際社会について考える場合、日本では欧米を中心に考えてしまう傾向があります。従って、イスラーム諸国をはじめ、欧米以外のアジア・アフリカ諸国に関しても、興味関心を抱き、理解しようとする姿勢を養うことを目指します。

3.国際社会に関するニュースに常に着目し、イスラーム地域だけでなく世界全体に関する時事問題を読み解くための教養を身につけることを目指します。さらに、それらの問題に関して自らの見解を述べ、文章化する能力を養います。
授業計画/Lecture plan
1
授業計画/Class 中東・イスラーム世界(文化、社会)の多様性と類似性
事前学習/Preparation 中東・イスラーム世界について、どのようなイメージを有しているか、各自考えておく。
事後学習/Reviewing 当初有していたイメージがどのように変わったか、特に、多様な文化に対してどう思うか、考えをまとめておく。
2
授業計画/Class イスラームの歴史と宗派(スンナ派とシーア派)
事前学習/Preparation 「ダーイシュ(IS, ISIS, ISIL)」や「アル=カーイダ」、「ターリバーン」などの「過激派」について、概説書やニュースを読み、できる限り自発的に調べる。
事後学習/Reviewing NHKスペシャル「映像の世紀」「新・映像の世紀」を視聴し、現在の国際社会がどうしてこのようになっているのか、考える。
3
授業計画/Class イスラームの教義(六信五行とイスラーム法)
事前学習/Preparation イスラームの教義の基本であるイスラーム法と、イスラーム世界の社会・文化に大きく影響しているシャリーア(イスラーム法)について、概説書などで調べておく。
事後学習/Reviewing 「ダーイシュ(IS, ISIS, ISIL)」などの問題のみならず、女性のヒジャーブ(ヴェール)や食物規制など、ムスリム(イスラーム教徒)の生活に大きな影響を及ぼしているシャリーア(イスラーム法)について、自身の考えをまとめておく。
4
授業計画/Class イスラーム法に基づく社会規範と婚姻
事前学習/Preparation シャリーア(イスラーム法)に基づく社会規範と婚姻の問題について、概説書などで調べておく。
事後学習/Reviewing どのイスラーム法学派がその地域・国で優勢なのかにより、人々のシャリーアに対する姿勢が異なる点、同じ地域・国でもシャリーアをどのくらい守るのかには個人差が大きい点について、自分の考えをまとめておく。
5
授業計画/Class イスラーム神秘主義と聖者崇拝、シーア派の宗教行事
事前学習/Preparation 8世紀から近代まで(特に13世紀)に隆盛を極め、イスラーム世界の豊かな文化を形づくった神秘主義と聖者崇拝という民間信仰について、概説書などで調べておく。
事後学習/Reviewing シャリーアに厳格な立場からは否定されるが、神秘主義と聖者崇拝は歴史的に重要な役割を果たしたことについて、さらに、イマームを聖者として崇拝するシーア派の宗教行事について、考えをまとめる。
6
授業計画/Class イラン「近代化」の時代
事前学習/Preparation ペルシャ人が多数派のイランは、アラブ諸国やトルコとは違う独特の文化を有している一方で、帝国主義時代の西欧の侵出に他の中東諸国と同様に苦悩した。その歴史的経緯について、概説書で調べておく。
事後学習/Reviewing ペルシャ人が多数派ではあるが、多民族・多言語・多宗教国家でもあるイランについて、アラブ諸国やトルコとの違いと共通点を整理しておく。
7
授業計画/Class イラン革命と現代
事前学習/Preparation 親米の専制国家であったイランは、1979年のイラン革命後、イラン・イスラーム共和国となった。イランとアメリカ、イスラエル、サウディアラビアなどとの関係について、調べておく。
事後学習/Reviewing イラン革命後のイランについて、社会・政治・外交などの側面でどのように変遷してきたか、現在のイランを取り巻く状況に関し、整理しておく。
8
授業計画/Class イラン型大衆運動への女性参加
事前学習/Preparation 反専制・反帝国主義という側面にシーア派という要素が反映されたイラン型大衆運動の特徴と、現代のイラン女性たちが置かれている状況について調べておく。
事後学習/Reviewing イラン型大衆運動(タバコ・ボイコット運動、イラン立憲革命、石油国有化運動と反英デモ、イラン革命)のそれぞれの特徴を整理し、女性たちがそれらの運動にどのようにかかわってきたか整理する。
9
授業計画/Class イラン映画に見る女性と若者
事前学習/Preparation どのようなイラン映画があるか、調べておこう。
事後学習/Reviewing 理想と現実のギャップに対する女性や若者たちの挑戦、都市と農村の格差、保守派と改革派との間の分断など、イラン映画から読み取れる社会の特徴と女性を取り巻く状況について整理しておく。
10
授業計画/Class ロシアとカフカス・中央アジア

事前学習/Preparation 中東世界における諸問題と共通する問題と原因を有しているコーカサス(カフカス)と中央アジアについて、どのような国々があるのか、そして、ソビエト連邦やロシアとどのような関係にあるのか、調べておく。
事後学習/Reviewing 中東との共通点が多いコーカサスの紛争について、なぜそのような紛争が起こってしまうのか原因について整理し、これに対して国際社会はどのように取り組んだらよいか、各自考えをまとめておく。
11
授業計画/Class クルド問題とアルメニア問題
事前学習/Preparation アルメニア問題とクルド問題は、中東やコーカサス(カフカス)における民族問題・民族紛争の起源と言われ、第一次世界大戦の戦後処理がうまくいかずに不安定な状況となっている点はアラブ諸国の状況とも共通している点について調べておくこと。
事後学習/Reviewing 『コーカサス:国際関係の十字路』のような関連図書を読み、さらに学習する。
12
授業計画/Class 歴史的シリア地域(パレスティナとイスラエル=中東和平問題)
事前学習/Preparation 「新・映像の世紀」でも描かれていたように、中東におけるあらゆる不安定な状況の根源ともいえるパレスティナ・イスラエル問題に関し、その原因と歴史的経緯について、概説書を読んで調べておくこと。
事後学習/Reviewing 帝国主義の時代と植民地支配、第一次世界大戦と第二次世界大戦、冷戦期の米ソ対立などが、パレスティナをはじめとする中東全体に与えた影響について、整理しておく。
13
授業計画/Class 歴史的シリア地域(シリア・レバノン・ヨルダン)
事前学習/Preparation 「ダーイシュ(IS, ISIS, ISIL)」と難民問題に揺れるシリア地域であるが、現在のような状況に至る原因について考察するために、帝国主義と植民地支配、2度の大戦と冷戦がこの地域にどのような影響を与えたのか、概説書を読んでおく。
事後学習/Reviewing 『9.11後の現代史』などの参考図書を読み、「ダーイシュ(IS, ISIS, ISIL)」と難民問題の解決のために国際社会はどうすべきか、各自、考えをまとめておくこと。
14
授業計画/Class 歴史的シリア地域(シリア)とイラク
事前学習/Preparation 「ダーイシュ(IS, ISIS, ISIL)」と難民問題に揺れる国際社会が、現在のような状況に至る原因について考察するために、帝国主義と植民地支配、2度の大戦と冷戦がこの地域にどのような影響を与えたのか、過去100年余りの近現代史に関する概説書を読んでおく。
事後学習/Reviewing 『9.11後の現代史』などの参考図書を読み、「ダーイシュ(IS, ISIS, ISIL)」と難民の問題に揺れる国際社会は、今後、どのようにこれらの諸問題について取り組んでいったらよいか、各自、考えをまとめておく。
15
授業計画/Class アフガニスタンと現在のアラブ諸国
事前学習/Preparation 「アル=カーイダ」や「ターリバーン」はどうして生まれてしまったのか。ソ連のアフガニスタン侵攻、湾岸戦争、9・11とアメリカのイラク侵攻・アフガニスタン侵攻について、調べておくこと。

事後学習/Reviewing 『9.11後の現代史』などの参考図書を読み、「ダーイシュ(IS, ISIS, ISIL)」と難民の問題に揺れる国際社会は、今後、どのようにこれらの諸問題について取り組んでいったらよいか、各自、考えをまとめておく。
授業方法/Method of instruction
オンライン授業実施の際の使用ツール
CoursePower、Webex、Teams、Zoomなど(CoursePowerで説明します)
成績評価方法/Evaluation
1 平常点 In-class Points 40% 文章執筆の訓練のため、授業に関するコメントを書いて下さい。
短くてよいので、授業で何を学んだか、そのことについて自分はどう考えるか、論述して下さい。
平常点と授業に関するコメントで40%とします。
2 レポート Report 60% 期末レポートを提出して下さい。
項目A(中東社会、イスラーム世界全般)、項目B(イランの社会と文化)、項目C(国際関係)から2つを選び、授業で学んだことを整理した上で、自身の考えを論述して下さい。詳しい設問や提出方法については、授業の際に説明します。
教科書/Textbooks
 コメント
Comments
1 教科書は使用せず、授業に必要な資料を適宜、配布します。

なるべく下記の参考書を読んだ上で授業に臨むようにして下さい。
参考書/Reference books
 著者名
Author
タイトル
Title
出版社
Publisher
出版年
Published year
ISBN価格
Price
コメント
Comments
 
1 青柳かおる著 面白いほどよくわかるイスラーム 日本文芸社 2007.3 9784537254785 1400円+税 詳しくは、授業の際に文献リストを配布します。 蔵書情報 / Library information
2 桜井啓子著 現代イラン:神の国の変貌 岩波書店 2001.7 4004307422 700円+税 蔵書情報 / Library information
3 桜井啓子著 シーア派 中央公論新社 2006.10 4121018664 780円+税 蔵書情報 / Library information
4 廣瀬陽子著 コーカサス:国際関係の十字路 集英社 2008.7 9784087204520 700円+税 蔵書情報 / Library information
5 酒井啓子著 「中東」の考え方 講談社 2010.5 9784062880534 760円+税 蔵書情報 / Library information
6 酒井啓子著 9.11後の現代史 講談社 2018.1 9784062884594 800円+税
7 高橋和夫著 中東から世界が崩れる:イランの復活、サウジアラビアの変貌 NHK出版 2016.6 9784140884904 780円+税
8 内藤正典著 限界の現代史:イスラームが破壊する欺瞞の世界秩序 集英社 2018.10 9784087210545 860円+税
9 長沢栄治監修 イスラーム・ジェンダー・スタディース1:結婚と離婚 明石書店 2019.11 9784750349381 2500円+税
その他/Others
元外務省所管財団法人、現在は公益財団法人である日本最古の中東研究シンクタンクでの実務経験(編集担当・イラン現状分析)を有する教員が、専門である中東・北アフリカを主とするイスラーム世界の社会・文化について指導する。
キーワード/Keywords
実務経験