講義内容詳細:量子化学Ⅰ

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年度/Academic Year 2020
授業科目名/Course Title (Japanese) 量子化学Ⅰ
英文科目名/Course Title (English) Quantum Chemistry I
学期/Semester 前期 単位/Credits 2
教員名/Instructor (Japanese) 阿部 二朗
英文氏名/Instructor (English) ABE, Jirou

講義概要/Course description
全ての前期講義はオンライン授業で行うことになりましたが、授業の進め方についての詳細は下のメッセージ欄を参照してください。

現代の物理化学は20世紀初頭に構築された量子力学を基礎としている。物理化学には、熱力学(化学反応のエネルギー論を扱う)、量子化学(分子構造、電子状態を扱う)、化学反応論(化学反応の速度を扱う)という三つの主要な領域がある。量子化学は物質の化学的・光学的性質、有機化学反応、機能性分子や医薬品の設計、電子励起状態が関わる光化学反応、分子分光法、反応速度論などを理解するために不可欠な学問領域である。講義では、波動関数の取り扱いやその性質を理解するために必要な量子化学の基礎を学ぶ。
達成目標/Course objectives
量子力学の基礎を理解した上で、シュレディンガー方程式の固有関数である波動関数の導出方法や、その性質を理解し、多電子原子や多原子分子の電子状態、化学結合について理解することを目標とする。分子軌道を理解することで分子の性質や化学反応性を、さらに、電子励起状態が関わる光化学反応や光学的性質を理解することができるようになる。後期の量子化学Ⅱでは、量子化学Ⅰで学んだ知識を活用して有機化学反応や光化学反応を学ぶ。
履修条件(事前に履修しておくことが望ましい科目など)/Prerequisite
基礎化学、数理化学を履修していることが望ましい。後期の量子化学Ⅱを履修する学生は、量子化学Ⅰを必ず受講すること。また、卒業研究で物理化学系研究室への配属を希望する学生は必ず受講すること。
授業計画/Lecture plan
1
授業計画/Class 「前期量子論1」電磁波の特徴、19世紀の物理学の法則では説明できなかった黒体放射を説明するために導かれたプランクの量子仮説、紫外線を照射すると金属表面から電子が放出される光電効果のアインシュタインの解釈を理解する。
事前学習/Preparation 「前期量子論2」に関する講義スライド、および教科書3~13ぺージを読んでおく。
事後学習/Reviewing 電磁波、黒体放射、プランクの量子仮説、光電効果、アインシュタインの光量子仮説についての理解を確認しておく。
例題1.1〜1.5を解き、CoursePowerで解答を提出する。
2
授業計画/Class 「前期量子論2」水素原子の発光スペクトルのバルマーやリュードベリによる解釈、ド・ブロイによる物質の波動性、水素原子のスペクトルを説明するために考え出されたボーア理論、ハイゼンベルグの不確定性原理などを学ぶことで、量子論の礎となる考え方がいかにして生み出されてきたかを理解する。
事前学習/Preparation 「前期量子論2」に関する講義スライド、および教科書13~41ぺージを読んでおく。
事後学習/Reviewing 水素原子の発光スペクトル、ド・ブロイの物質波、ボーアの水素原子モデル、ハイゼンベルグの不確定性原理についての理解を確認しておく。
例題2.1〜2.6を解き、CoursePowerで解答を提出する。
3
授業計画/Class 「古典的波動方程式」シュレディンガー方程式に対する物理的な意味づけを提供する古典的波動方程式について学ぶ。さらに、古典的波動方程式を解くのに使われる数学(微分方程式の解法)を身に着けることで、量子力学の数式の取り扱いに慣れることを目標とする。
事前学習/Preparation 「古典的波動方程式」に関する講義スライド、および教科書43~66ページを読んでおく。
事後学習/Reviewing 一次元波動方程式、変数分離法、常微分方程式、調和振動、二次元波動方程式についての理解を確認しておく。
例題3.1を解き、CoursePowerで解答を提出する。
4
授業計画/Class 「シュレディンガー方程式」量子力学の基本的方程式であるシュレディンガー方程式と、その方程式の解である波動関数について学ぶ。講義では、時間を変数として含まない時間に依存しないシュレディンガー方程式の解(定常状態の波動関数)について学ぶ。化学者にとって興味ある多くの問題が定常状態の波動関数のみを用いて記述することができる。
事前学習/Preparation 「シュレディンガー方程式」に関する講義スライド、および教科書79~86ページを読んでおく。
事後学習/Reviewing シュレディンガー方程式、線形演算子、固有値方程式、ハミルトン演算子、量子数、量子化、波動関数の確率解釈、波動関数の規格化についての理解を確認しておく。
例題4.1、4.2を解き、CoursePowerで解答を提出する。
5
授業計画/Class 「箱の中の粒子1」時間に依存しないシュレディンガー方程式を長さaの一次元の領域に存在するように束縛された質量mの自由粒子に適用する。この系は、箱の中の粒子といわれ、量子力学の標準的な問題である。さらに、波動関数の確率論的解釈について理解する。
事前学習/Preparation 「箱の中の粒子1」に関する講義スライド、および教科書86~93ページを読んでおく。
事後学習/Reviewing 井戸型ポテンシャル、波動関数の規格化についての理解を確認しておく。
例題5.1を解き、CoursePowerで解答を提出する。
6
授業計画/Class 「箱の中の粒子2」時間に依存しないシュレディンガー方程式を長さaの一次元の領域に存在するように束縛された質量mの自由粒子に適用する。観測量の平均値、分散、標準偏差、不確定性原理について学ぶ。
事前学習/Preparation 「箱の中の粒子2」に関する講義スライド、および教科書93~103ページを読んでおく。
事後学習/Reviewing 観測量の平均値、分散、標準偏差、ハイゼンベルグの不確定性原理についての理解を確認しておく。
例題6.1を解き、CoursePowerで解答を提出する。
7
授業計画/Class 「量子力学の仮説と一般原理」量子力学においては古典力学の変数が演算子で表現され、これらの演算子を波動関数に作用させると、測定値の平均あるいは期待値が求まる。波動関数の性質を理解し、さまざまな物理量を導き出すために必要となる量子力学系の仮説から一般的な定理について学ぶ。
事前学習/Preparation 「量子力学の仮説と一般原理」に関する講義スライド、および教科書125~145ページを読んでおく。
事後学習/Reviewing 量子力学系の状態、量子力学演算子、観測量、演算子の可換性についての理解を確認しておく。
例題7.1を解き、CoursePowerで解答を提出する。
8
授業計画/Class 「調和振動子:核の振動」最初に古典的な調和振動子を学習し、次に量子力学的調和振動子のエネルギーとそれに対応する波動関数を学ぶ。この波動関数は原子核の波動関数に対応するものである。さらに量子力学的エネルギーを用いて二原子分子の赤外線吸収スペクトルを解釈し、振動スペクトルからどのようにして分子の力の定数を決定するかを学ぶ。
事前学習/Preparation 「調和振動子:核の振動」に関する講義スライド、および教科書169~186ページを読んでおく。
事後学習/Reviewing 調和振動子、非調和項、モースポテンシャル、零点エネルギー、赤外線吸収スペクトル、基本振動数、エルミート多項式、振動波動関数、極座標についての理解を確認しておく。
例題8.1を解き、CoursePowerで解答を提出する。
9
授業計画/Class 「水素原子1」水素原子のシュレディンガー方程式を学習し、波動関数の形状や3つの量子数が導入された経緯について学ぶ。また、角運動量演算子と球面調和関数との相関について学習し、水素原子において、角運動量の方向が空間的に制限されてることを学ぶ。
事前学習/Preparation 「水素原子1」に関する講義スライド、および教科書207~222ページを読んでおく。
事後学習/Reviewing 極座標、球面調和関数、ルジャンドル陪関数についての理解を確認しておく。
例題9.1、9.2を解き、CoursePowerで解答を提出する。
10
授業計画/Class 「水素原子2」前回の講義に引き続き、水素原子のシュレディンガー方程式の動径成分や波動関数のエネルギーを学習することにより、ボーアの水素原子モデルとの相関を学ぶ。また、各波動関数のオービタルの形状とその規則性についても学ぶ。
事前学習/Preparation 「水素原子2」に関する講義スライド、および教科書222~237ページを読んでおく。
事後学習/Reviewing 角運動量、量子数についての理解を確認しておく。
例題10.1を解き、CoursePowerで解答を提出する。
11
授業計画/Class 「近似的方法:変分法」電子数が2個以上の原子のシュレディンガー方程式は厳密に説くことはできないため、何かしらの近似を用いなければならない。これらの方程式を解くための近似方法の一つとして“変分法”について学習し、ヘリウム原子のシュレディンガー方程式の解き方について学ぶ。
事前学習/Preparation 「近似的方法:変分法」に関する講義スライド、および教科書237~278ページを読んでおく。
事後学習/Reviewing 変分原理、永年行列式、永年方程式についての理解を確認しておく。
例題11.1を解き、CoursePowerで解答を提出する。
12
授業計画/Class 「化学結合:二原子分子」“分子軌道法”について学習し、一電子波動関数(原子軌道)の一次結合を用いた二原子分子の取り扱い方を学ぶ。第11回で学んだ“変分法”が分子軌道を明らかにするうえで強力な手法となることを学ぶとともに、二原子分子の特性が分子軌道法によって正しく説明できることを学ぶ。
事前学習/Preparation 「化学結合:二原子分子」に関する講義スライド、および教科書352~380ページを読んでおく。
事後学習/Reviewing ボルン・オッペンハイマー近似、重なり積分、クーロン積分、交換積分、水素分子の分子軌道、SCF-LCAO-MO波動関数についての理解を確認しておく。
例題12.1を解き、CoursePowerで解答を提出する。
13
授業計画/Class 「多原子分子の結合とヒュッケル分子軌道法」混成オービタルについて学習し、多原子分子の構造とオービタルとの関係について学ぶ。ヒュッケル分子軌道法について、いくつかの例題を通じてエネルギー準位図、及び波動関数の算出方法を学ぶ。また、ヒュッケル分子軌道法から導かれるヒュッケル則について学習し、芳香族性、反芳香族性の規則性について学ぶ。
事前学習/Preparation 「多原子分子の結合とヒュッケル分子軌道法」に関する講義スライド、および教科書403~426ページを読んでおく。
事後学習/Reviewing 混成軌道、ヒュッケル分子軌道についての理解を確認しておく。
例題13.1を解き、CoursePowerで解答を提出する。
14
授業計画/Class 「フロンテイア軌道論」軌道相互作用、電荷移動相互作用について学び、フロンテイア軌道理論に基づいて求電子置換反応、求核置換反応、ディールズ・アルダー反応などの有機化学反応を理解する。
事前学習/Preparation 「フロンテイア軌道論」に関する講義スライド。
事後学習/Reviewing 軌道相互作用、フロンテイア軌道理論、求電子置換反応、求核置換反応、ディールズ・アルダー反応についての理解を確認しておく。
例題14.1、14.2を解き、CoursePowerで解答を提出する。
15
授業計画/Class 量子化学に関する著名な論文を読む。
事前学習/Preparation 第1回から第14回の講義内容を十分に復習しておく。
事後学習/Reviewing 論文を読み、概要をレポートにまとめて、CoursePowerで提出する。
授業方法/Method of instruction
教科書の内容をわかりやすく解説した講義スライドを中心として講義を進めます。事前に講義スライドのpdfファイルを配布しますので、まずは、講義スライドを読み、説明が不足する箇所については教科書を読むことで理解を深めてください。教科書との対応がわかるように、講義スライドには教科書のページ番号を付しておきます。
成績評価方法/Evaluation
1 レポート Report 100% 毎週提出する例題の答案と、15回目の講義で課題とするレポートの総合点で評価する。
教科書/Textbooks
 著者名
Author
タイトル
Title
出版社
Publisher
1 マッカーリ、サイモン 物理化学(上)分子論的アプローチ 東京化学同人
参考書/Reference books
 著者名
Author
タイトル
Title
出版社
Publisher
 
1 原田義也 量子化学(上) 裳華房
メッセージ/Message
今年度の前期開講科目は、すべてオンラインで実施することになりました。
講義は教科書と、教科書を解説した配布資料に基づいて行う。
配布資料はCoursePowerからダウンロードしてください。毎回の配布資料には例題があるので、これを解いて、解答レポートを指定の期日までにCoursePowerに提出してください。
解答はノートに手書きして、それを写真あるいはpdfファイルとして提出してください。

質問がある場合には、担当教員にメールで質問してください。
メールアドレス:jiro_abe@chem.aoyama.ac.jp