講義内容詳細:量子化学Ⅱ

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年度/Academic Year 2020
授業科目名/Course Title (Japanese) 量子化学Ⅱ
英文科目名/Course Title (English) Quantum Chemistry Ⅱ
学期/Semester 後期 単位/Credits 2
教員名/Instructor (Japanese) 阿部 二朗
英文氏名/Instructor (English) ABE, Jirou

講義概要/Course description
視覚、植物の光合成、花芽の形成などを代表として、地球上の生命は、ほぼすべてが太陽光の恩恵を受けています。それらの基礎過程は光と物質の相互作用です。光化学は物質による光吸収で誘起される化学現象を扱う学問領域であり、光化学反応は電子基底状態が関わる熱反応とは異なり、高いエネルギー状態の電子励起状態を経由する化学反応です。21世紀は光の時代といわれており、光化学の重要性はますます増しています。例えば、環境に優しいクリーエネルギー源である、太陽電池や人工光合成の研究は国家レベルで推し進められています。量子化学を用いて光と物質の相互作用の基礎概念と電子励起状態の性質について講義します。
達成目標/Course objectives
多電子系の波動関数や光と物質の相互作用の基本的な考え方を理解した上で、電子励起状態における化学反応、エネルギー移動、電子移動、光増感など現代光化学の理解に必要な基礎概念を修得することを目標とします。
履修条件(事前に履修しておくことが望ましい科目など)/Prerequisite
量子化学Ⅰを履修していること。卒業研究で物理化学系研究室への配属を希望する学生は、前期の量子化学Ⅰと併せて必ず受講してください。
授業計画/Lecture plan
1
授業計画/Class 量子力学の基礎1
事前学習/Preparation 量子化学Ⅰの復習その1。「量子力学の基礎1」に関する講義スライドを読んでおくこと。
事後学習/Reviewing 前期の量子化学Ⅰの講義内容を復習しておく。
2
授業計画/Class 量子力学の基礎2
事前学習/Preparation 量子化学Ⅰの復習その2。「量子力学の基礎2」に関する講義スライドを読んでおくこと。
事後学習/Reviewing 前期の量子化学Ⅰの講義内容を復習しておく。
3
授業計画/Class 角運動量とスピン
事前学習/Preparation 「角運動量とスピン」に関する講義スライドを読んでおくこと。電子は軌道角運動量とともに、自転運動に対応するスピン角運動量をもつ。二つの電子が対になっているときはスピン角運動量が打ち消されているが、不対電子をもつ系では角運動量による磁気モーメントが生じ、原子や分子の磁気的性質が発現する。電子スピン共鳴(ESR)や核磁気共鳴(NMR)などの磁気共鳴分光法を理解するためには磁気モーメントの理解が不可欠である。授業では、軌道角運動量、スピン角運動量、軌道磁気モーメント、スピン磁気モーメント、ゼーマン効果について理解を深める。
事後学習/Reviewing 軌道角運動量、スピン角運動量、軌道磁気モーメント、スピン磁気モーメント、ゼーマン効果の理解を確認しておく。
4
授業計画/Class 独立電子近似
事前学習/Preparation 「独立電子近似」の講義スライドを読んでおくこと。2個以上の電子を含む多電子ハミルトニアンの固有関数を考える。多電子ハミルトニアンに対するシュレディンガー方程式の解析解(数学的に厳密な解)を得ることはできないため、近似解を得る一つの方法として独立電子近似を学ぶ。授業では、独立電子近似(平均場近似)、ハートリー近似、1電子ハミルトニアン、1電子軌道関数、反対称性原理、パウリの排他原理について理解を深める。
事後学習/Reviewing 独立電子近似(平均場近似)、ハートリー近似、1電子ハミルトニアン、1電子軌道関数、反対称性原理、パウリの排他原理の理解を確認しておく。
5
授業計画/Class スレーター行列式
事前学習/Preparation 「スレーター行列式」に関する講義スライドを読んでおくこと。前回はハートリー近似を用いて多電子波動関数を表す方法について学んだが、ハートリー積は電子を区別していることになり、パウリの排他原理を満たさない、という欠点があった。考えられる全てのハートリー積の線形結合をとることで、電子を区別することが解消される。ハートリー積の線形結合は行列式として表現することができるが、この行列式をスレーター行列式とよぶ。授業では、スレーター行列式と電子相関について理解を深める。
事後学習/Reviewing スレーター行列式と電子相関の理解を確認しておく。
6
授業計画/Class スピン三重項状態
事前学習/Preparation 「一重項状態と三重項状態」に関する講義スライドを読んでおく。2電子系の波動関数では、二つの電子のスピン状態によりスピン一重項状態とスピン三重項状態が存在する。スピン三重項状態はスピン磁気モーメントを持つが、スピン一重項状態のスピン磁気モーメントがゼロである。スピン状態の違いは化学反応性や分子特性に大きな影響を与える。また光化学反応を理解する上でも不可欠なものである。授業では、スピン一重項状態とスピン三重項状態の波動関数について理解を深める。
事後学習/Reviewing 電子スピン、一重項状態、三重項状態について理解を確認しておく。
7
授業計画/Class ヒュッケル分子軌道法1
事前学習/Preparation 「ヒュッケル分子軌道法1」に関する講義スライドを読んでおく。分子軌道法、及びヒュッケル分子軌道法を学習し、共役𝜋電子系の𝜋電子軌道、及びそのエネルギーの算出方法について学ぶ。
事後学習/Reviewing ヒュッケル近似、ヒュッケル分子軌道について理解を確認しておく。
8
授業計画/Class ヒュッケル分子軌道法2
事前学習/Preparation 「ヒュッケル分子軌道法2」に関する講義スライドを読んでおく。ヒュッケル分子軌道法を引き続き学習し、芳香族化合物やヘテロ原子を含む化合物の 𝜋 電子軌道、及びそのエネルギーの求め方について学ぶ。
事後学習/Reviewing π電子エネルギー、芳香族性について理解を確認しておく。
9
授業計画/Class フロンティア軌道論
事前学習/Preparation 「フロンティア軌道論」に関する講義スライドを読んでおく。軌道相互作用の原理について学習し、 𝜋 電子近似を超えた、より一般的な軌道相互作用について学ぶ。またフロンティア軌道論について学習し、化合物の反応性や反応選択性について学ぶ。
事後学習/Reviewing 軌道相互作用の原理について理解を確認しておく。
10
授業計画/Class 光化学1:光の吸収
事前学習/Preparation 「光化学1:光の吸収」に関する講義スライドを読んでおく。物質が光を吸収する過程について学び、光化学の中で最も重要な概念である“光と物質の相互作用”について理解を深める。
事後学習/Reviewing 分子の光吸収の原理、Jablonskiダイアグラム、ボルン-オッペンハイマー近似、振動子強度、遷移選択則、フランク-コンドン積分について理解を確認しておく。
11
授業計画/Class 光化学2:輻射過程と無輻射過程
事前学習/Preparation 「光化学2:輻射過程と無輻射過程」に関する講義スライドを読んでおく。物質が光を吸収した後のエネルギー緩和過程を理解するため、輻射過程(蛍光)と無輻射過程の基礎について学ぶ。励起一重項状態を主に考えながら、化合物の構造や電子状態と光物性との相関について理解する。
事後学習/Reviewing 分子のエネルギー失活過程、Kasha則、蛍光、振電遷移、許容遷移、エネルギーギャップ則、内分変換について理解を確認しておく。
12
授業計画/Class 光化学3:励起三重項状態
事前学習/Preparation 「光化学3:励起三重項状態」に関する講義スライドを読んでおく。励起三重項状態について学習し、項間交差によりスピン多重度が変わる過程について理解するとともに、励起三重項状態を用いたいくつかの応用例についても紹介する。
事後学習/Reviewing 励起三重項状態、りん光、スピン関数、El-Sayed則、重原子効果、項間交差、スピン軌道相互作用について理解を確認しておく。
13
授業計画/Class エネルギー移動、電子移動過程
事前学習/Preparation 「エネルギー移動、電子移動過程」に関する講義スライドを読んでおく。エネルギー移動、及び電子移動について学習し、複数の分子が関わるエネルギー緩和過程の基本的なモデル、及び応用例について理解する。
事後学習/Reviewing エネルギー移動の種類、フェルスター半径、マーカス電子移動理論、再配向エネルギーについて理解を確認しておく。
14
授業計画/Class 演習1
事前学習/Preparation 「演習問題」に関する講義スライドを読んでおく。量子化学II全体の理解を深めるために演習問題を解く。第3~9回までは各自で解き、第10~13回(光化学)に関しては、授業で解説をする。
事後学習/Reviewing 演習問題について理解を確認しておく。
15
授業計画/Class 演習2
事前学習/Preparation 「演習問題」に関する講義スライドを読んでおく。量子化学II全体の理解を深めるために演習問題を解く。第3~9回までは各自で解き、第10~13回(光化学)に関しては、授業で解説をする。
事後学習/Reviewing 演習問題について理解を確認しておく。
授業方法/Method of instruction
今年度の後期開講科目は、すべてオンラインで実施することになりました。 
講義は配布資料と2冊の参考書に基づいて行います。 配布資料はCoursePowerからダウンロードしてください。
講義動画を併せて配信する講義もあるので、毎週 CoursePower の情報をチェックしてください。

毎回の配布資料には課題があるので、 これを解いて、解答レポートを指定の期日(講義日から1週間後)までにCoursePower上で提出してください。解答はノートに手書きしたものを写真撮影し、「一つ」のpdfファイルとして提出してください。提出するpdfファイルのファイル名は ”必ず”「氏名.pdf」としてください。

質問がある場合には、担当教員にメールで質問してください。 メールアドレス:jiro_abe@chem.aoyama.ac.jp
メールを送信する場合には、必ず自分の氏名を記してください。
成績評価方法/Evaluation
1 レポート Report 100% 毎週提出する課題レポートで評価する。
参考書/Reference books
 著者名
Author
タイトル
Title
出版社
Publisher
出版年
Published year
ISBN価格
Price
 
1 阿部二朗、武藤克也、小林洋一 フォトクロミズム 共立出版 2019年 9784320044715 2100円
2 井上晴夫、高木克彦、佐々木政子、朴鐘震 光化学Ⅰ 丸善出版