講義内容詳細:西洋倫理思想史A

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年度/Academic Year 2021
授業科目名/Course Title (Japanese) 西洋倫理思想史A
英文科目名/Course Title (English) History of Western Ethical Thought A
学期/Semester 前期 単位/Credits 2
教員名/Instructor (Japanese) 兼利 琢也
英文氏名/Instructor (English) KANETOSHI Takuya

講義概要/Course description
 人が生きていく中で直面せざるをえない、世界と人間に関わる問いは、時空を越えて普遍的である一方、その具体的な姿と扱いは、地域と時代に密接に結びついている。本講義で紹介する古代ギリシャ・ローマ世界の倫理は、現代にいたる西洋の倫理(学)の祖形であるともに、特に近現代の、個人(の感情)の決断と正義と契約に重点を置く倫理とは異なり、人間共同体を各人間の能力(「徳 arete, virtus」)の発揮の場として、そこでの行為を各人の幸福と内在的に繋ぐものであった(現代の徳倫理学および共同体倫理学に直接連なる)。哲学(philosophia「知を愛する営み」)とは古代では特定の学問ではなく、「生の技法 ars vivendi」、つまりよき生(=幸福)をもたらす技であり続けたが、古代異教世界の再度にわたる繁栄と衰退の中で異なる様相を呈し、その制約と新たな可能性をも提示した。彼らの問いと答の試みを概観する中で、現代の社会と個人が直面する問題について考える手掛かりも提供できることを願っている。
達成目標/Course objectives
倫理学の基礎的知識として重要な西洋古代世界の倫理に関わる概念と思考法を知る。
テーマ:幸福とその構成要素としての徳(人間的卓越性)、共同体における個
履修条件(事前に履修しておくことが望ましい科目など)/Prerequisite
西洋史を概観できていることが望ましいです。
授業計画/Lecture plan
1
授業計画/Class 第 1回:概観:西洋古典古代世界とその基本的な世界観の変遷
事前学習/Preparation かんたんでよいですから西洋古代の歴史、その始まりから終わり(前7世紀から後5世紀頃)をおさらいしておくことを勧めます。
事後学習/Reviewing 講義を踏まえて古典古代の通史の中での位置を復習して、主な区分をいつでもすぐ話せるよう覚えるとよいです(なお、教養とは調べる能力ではありません。いつでもすぐ出せるものでなければいけないのです。記憶をおろそかにしないことです)。

2
授業計画/Class 第 2回:ホメロス1:古代異教倫理の根幹としての英雄共同体の掟、『イリアス』
事前学習/Preparation 『イリアス』とその主人公アキレウスについて調べること。
事後学習/Reviewing 講義の内容と敷延して、自己と自己の卓越性、その発揮の場(の具体的な共同体)について考える。
3
授業計画/Class 第 3回:ホメロス2:『オデュッセイア』:共同体と正義
事前学習/Preparation 『オデュッセイア』と主人公オデュッセウスについて調べること。
事後学習/Reviewing 死のための教えである悲劇との対比で、生の教えである喜劇の本質的な社会性を考える。
4
授業計画/Class 第 4回:ヘシオドス:弱者の生のルサンチマンと要求、正義と宗教
事前学習/Preparation ヘシオドスについて調べること。
事後学習/Reviewing 宗教について、共同体内における視点の位置、外在的な伝統遵守と内在的な良心の生成について、日本と世界の宗教に関して考察する。
5
授業計画/Class 第 5回:アテナイの啓蒙とソフィスト:民主主義と生の繁栄、成功のための知
事前学習/Preparation ペルシャ戦争とペリクレス時代のアテナイについて調べること。
事後学習/Reviewing ギリシャ(アテネ)的な自由の精神、競争と繁栄、弁論術の意義と危険について現代的に考察する。
6
授業計画/Class 第 6回:ギリシャ悲劇:伝統価値観の変容と衰退、それに対する抗議;三大悲劇詩人について
事前学習/Preparation ギリシャ悲劇に関する一般的な事柄を調べておくこと。
事後学習/Reviewing いかなる芸術も特定の地域と時代の産物であることを理解した上で、その普遍的な特質を、日本や世界の芸術の興亡の中で考える。
7
授業計画/Class 第 7回:ソクラテス:「よき生」の問い:相対主義との対決,言語における探求
事前学習/Preparation 前に扱ったソフィストたちとソクラテスについて調べ、アリストパネスの喜劇『雲』を読む。
事後学習/Reviewing 初期プラトン対話篇を読み、その中でソクラテスの声に接し語り合う経験をもつ。
8
授業計画/Class 第 8回:プラトン1:自然と言語における真理の追求、魂の不死性と幸福
事前学習/Preparation ソクラテスに関して復習すると同時にピュタゴラスについて調べ、あわせて内面性の宗教と神秘主義について考察する。
事後学習/Reviewing 真の自己と真理との繋がりについて考えてみる。
9
授業計画/Class 第 9回:プラトン2:魂の調和としての幸福、理想国と知の体制
事前学習/Preparation 人間の共同体とその支配のあり方、それと類比的に理性・感情・肉体の維持と管理を考える。
事後学習/Reviewing プラトンの理想国制と照らして現代における共同体の制度を考える。
10
授業計画/Class 第10回: アリストテレス1:諸学の体系と倫理学の完成:行為と目的
事前学習/Preparation 行為について定義を試みる;人生の目的について考える。
事後学習/Reviewing アリストテレスの幸福の定義を具体的に自分自身に当てはめて考えることはたいへん大切です。それは現代でもまったく変わりません。ある種の現代思想などとは異なる、きわめて正しい大人の教えですから。
11
授業計画/Class 第11回:アリストテレス2:性格の徳と思慮,実践と観照の幸福
事前学習/Preparation 性格とその形成、行為の責任について一般的な理解を考察してみる。
事後学習/Reviewing アリストテレスの性格論を用いて自己分析をおこなうとよいです。
12
授業計画/Class 第12回:エピクーロス:原子論と快楽主義、生の理想(無碍 ataraxia)の逆説
事前学習/Preparation 原子論・唯物論および快楽主義と功利主義は、近現代の社会理論の基礎です。現代の常識的な世界観を振り返っておくとよいでしょう。
事後学習/Reviewing 現代の功利主義と古代幸福主義の快楽論の相違を確認してみること。
13
授業計画/Class 第13回:ストア派1:宇宙(理性共同体)の構成者としての人間的理想(賢者)
事前学習/Preparation ヘレニズム期ギリシャとローマ帝国の体制を調べる;自我を出発点とする思想の系譜(デカルト、実存主義など)を調査するとよいでしょう。
事後学習/Reviewing 現代の巨大な人類共同体における人間の幸福のあり方について考える。
14
授業計画/Class 第14回:ストア派2:ローマの哲学:キケローとセネカ;マルクス・アウレリウスとローマのストア哲学
事前学習/Preparation 古典古代はギリシアローマ文化と呼ばれますが、ローマ人とその文化はギリシア人とどう異なるか考えてみる。彼らのリアリズムについて、たとえば塩野七生『ローマ人の物語』などで触れてみるとよいです。
事後学習/Reviewing キケロー、セネカがどういう人でどんな生を生き、何を残したか言えるようにして、その対比で西洋近代を考えてみるとよいです。彼らはその言語であるラテン語のおかげで実際にルネサンスから近代にかけてよく読まれ大きな影響を与えていますから。
15
授業計画/Class 第15回:古代世界の終焉とキリスト教:愛の共同体
事前学習/Preparation キリスト教は本学の礎ですから他大学より触れることが多いはずです。これまで学んだ古代の共同体倫理とどこが違うかを考えてみること。また、日本は百年以上前から西洋型近代文明国家ですが唯一の非キリスト教国です。その理由を重ねて考えてみるとよいでしょう。
事後学習/Reviewing 現代においても宗教の力は非常に強く、これからもそうにちがいありません。その理由を考えてみる。
授業方法/Method of instruction
今期もオンライン式授業になりました。オンデマンド式で行います。昨年度は1時間の音声ファイルを毎週配信しました。今年はPCキャプチャ動画にするかもしれません(動画の必要性はあまり大きくないのですが)。いずれにせよ配布資料を見ながら説明するもので、その辺りは教室での授業と同じです。資料となる文書書類と,私の説明の録音または動画(1時間程度です)を毎回アップロードします.受講を確認(出席取りの代わり)と理解度等を確認するための課題を添えますので、それを提出してください。
成績評価方法/Evaluation
1 平常点 In-class Points 100% 上に記しましたように、教場で出席票で出席を取って講義を行う形式でなくてオンデマンド配信式ですから、毎回の小さな課題の提出とその内容、理解度と文章と思考の能力を見て総合的に判定します。
(大学の規定する採点基準に従いますから、出席だけでよい成績がつくわけではありません。自明のことですが念のため。また、提出された課題回答に対して、具体的な点数、正解例などを教示することは行いません。)
教科書/Textbooks
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1 教科書はありません。プリントをPDFで配布します(進行によりますから毎回ではありません)。
参考書/Reference books
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1 随時紹介します(が、あくまで話の中でです)。
メッセージ/Message
シラバス通りに進める予定ですが、進行が遅れて少し異なることがあるかもしれません。