講義内容詳細:翻訳演習Ⅰ

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年度/Academic Year 2021
授業科目名/Course Title (Japanese) 翻訳演習Ⅰ
英文科目名/Course Title (English) Seminar in Translation of Literature Ⅰ
学期/Semester 前期 単位/Credits 2
教員名/Instructor (Japanese) WALLER, Loren David
英文氏名/Instructor (English) WALLER, Loren David

講義概要/Course description
近年、「翻訳論」と「世界文学」の討論が活発であり、多くの論文やアンソロジーが出版されている。本演習では、最近の翻訳理論を踏まえながら日本文学とその翻訳について考察する。

翻訳とは、原文を読者の側に近づける「受容化」と、読者を原文の側に近づかせる「異質化」という2つの方法で分析できる。例えば、アーサー・ウェイリーの「受容化」的な英訳によって『源氏物語』は早くから「世界文学」として好評を得た。しかし、ウェイリーの英語圏の読者の文学世界の中に引き受けられたそれは、紫式部の世界からは大分離れたものであったことはよく指摘されている。一方で、詳細な注を抜きにしては理解できないいわゆる「アカデミック翻訳」や詩歌の文字通りの逐語訳は、元作の異質性を保ちながらも芸術性や詩性が乏しいと批判されることもある。本演習では、このように多くの視点から議論される翻訳の問題と、それにより引き出される文学の多様なありかたを再検討したい。また、原文で読むことができるものでも、翻訳論の視点から再読することによって、さらなる新しい発見も生まれてくるのである。前期では、少納言、道綱母、紫式部の作品を中心に、その翻訳とともに翻案や受容の問題も視野に入れ、批判的に照合し、また再評価したい。
達成目標/Course objectives
受講者は(1)「翻訳」と「世界文学」の理論と(2)日本文学の翻訳の歴史について学び、(3)そしてそれに基づいて翻訳の分析と批判を論理的に行うことが目標である。
履修条件(事前に履修しておくことが望ましい科目など)/Prerequisite
高等学校の国語科(古典)程度の基礎知識と高等学校卒業程度の英語力があることが望ましい。他の外国語ができる受講者も大歓迎。
授業計画/Lecture plan
1
授業計画/Class 【オンライン授業(オンデマンド型)での実施】オリエンテーション。CoursePowerを見てください。
事前学習/Preparation 日本文学の翻訳についてどのようなものがあるか、考えてくる。よい翻訳とは何かについて自分の意見を準備して来る。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておく。
2
授業計画/Class 松尾芭蕉の「古池や」。受講者の英訳と既存の翻訳を比較する。翻訳を批判する際、どういう課題があるのかを考える。
事前学習/Preparation 松尾芭蕉の「古池や」を英訳しておく。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておく。
3
授業計画/Class 翻訳を「暴力」と考える?Lawrence VenutiやDavid Damroschを始め、翻訳理論をもとに「翻訳」と「世界文学」の問題を提起する。
事前学習/Preparation 翻訳で何が失われるのか、何が加えられるのか、考えてくる。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておく。
4
授業計画/Class 和歌の翻訳を比較し、その問題や難点について考える。
事前学習/Preparation 「枕詞」「掛詞」「本歌取り」などの翻訳について考えてくる。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておく。
5
授業計画/Class 「翻訳不可能性」の可能性。Emily Apterなどの理論をもとに、「訳せないもの」の問題について考える。
事前学習/Preparation 日本文学で「訳せない」言葉について考えてくる。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておく。
6
授業計画/Class 『枕草子』の翻訳の歴史や多言語による翻訳について勉強する。
事前学習/Preparation 配布された『枕草子』の翻訳を読み、比較してくる。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておく。
7
授業計画/Class 『枕草子』の翻訳の比較を続ける。
事前学習/Preparation 前回の続き。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておく。
8
授業計画/Class 「女性は語ることができるか」。Gayatri Chakravorty SpivakやValerie Henitiukの理論をもとに、翻訳と「世界文学」における権力の問題について考える。
事前学習/Preparation 翻訳によって、作者の「声が奪われて」しまうかどうか、翻訳と権力の問題について考えてくる。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておく。
9
授業計画/Class 『蜻蛉日記』の翻訳を比較する。また、理論によって学んできた課題に基いて翻訳の問題について考える。
事前学習/Preparation 配布された『蜻蛉日記』の翻訳を比較してくる。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておく。
10
授業計画/Class 『蜻蛉日記』の翻訳を比較する。
事前学習/Preparation 前回の続き。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておく。
11
授業計画/Class 世界文学とは何か?文学の「世界化」とは何か?Franco Moretti, Eric Hayot, Pheng Cheahなどの指摘をもとに、「世界」の問題について考える。
事前学習/Preparation 「世界文学」といえば、だれの文学なのか、どのような世界なのか、考えてくる。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておく。
12
授業計画/Class 『源氏物語』の翻訳を比較する。
事前学習/Preparation 配布された『源氏物語』の翻訳を比較してくる。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておく。
13
授業計画/Class 『源氏物語』の翻訳を比較する。
事前学習/Preparation 前回の続き。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておく。
14
授業計画/Class 『源氏物語』の翻案と原作を翻訳論の視点から考える。
事前学習/Preparation 配布された作品を比較してくる。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておく。
15
授業計画/Class まとめとテスト。
事前学習/Preparation 前期に学んだことを復習し、そのノートを整理しておく。
事後学習/Reviewing 毎回、講義やディスカッションのノートを整理しておき、後期の勉強のために取っておく。また、後期の事前学習をしておく。
授業方法/Method of instruction
【対面授業(通常型)での実施】受講者は毎週資料を読み、授業でディスカッションを行う。講師はミニ講義をする。資料や課題提出はCoursePowerが利用される。
成績評価方法/Evaluation
1 平常点 In-class Points 60% 毎週の準備とディスカッション
2 レポート Report 40% 15回目の授業中に書く「テスト」としてのレポート
メッセージ/Message
翻訳の理論家の研究も併せて参照するが、日本語訳がない場合は英語の抜粋を読む。講義とディスカッションは日本語で行う。