講義内容詳細:史学特講B(6)

戻る
年度/Academic Year 2021
授業科目名/Course Title (Japanese) 史学特講B(6)
英文科目名/Course Title (English) Lecture on History B (6)
学期/Semester 後期 単位/Credits 2
教員名/Instructor (Japanese) 本間 裕章
英文氏名/Instructor (English) HONMA Hiroaki

講義概要/Course description
  「産業革命」と呼ばれてきた18世紀後半のイギリスで始まった社会・経済上の大きな変化は、イギリスや他の地域で生活する人々に何をもたらしたのか。前期の授業では産業革命の始まりについて主に検討したが、後期の授業では産業革命の影響についても検討する。
 歴史とは、E・H・カーが述べているように、「そこから行為の指針(guide to action)として役立つような結論を導き出す」ための「過去の諸事件と次第に現われて来る未来の諸目的との間の対話」と捉えることができる(『歴史とは何か』岩波新書、1962年、152、184頁)。過去の出来事に注目するのは、そのことが、今後、何をすれば良いのかを考える際に役立つからであるが、それぞれの時代や社会・個人がもつ特有の視点から過去の出来事を見ることによって、つまり、過去の出来事に様々な角度から色彩や強度も異なる光をあてることによって、過去の出来事は多様な姿を現わす。後期の授業では産業革命に関する議論の背景、つまり、その議論がなされた時代、社会、そして、その中で産業革命について論じた人々の価値観が、産業革命像にどのような影響を及ぼしてきたのかという点にも留意しながら、産業革命とは何であったのか、そこから行為の指針として役立つ、どのような結論を導き出すことができるのかについて検討する。
達成目標/Course objectives
 各自が、通念や願望ではなく、「事実」を踏まえた上で、産業革命とは「何時、どこで、誰によって、なぜ、どのようにして始まり、何をもたらした出来事なのか」(時期、場所、担い手、原因、進行過程、そして影響には、当然、幅があって、単一とは限らない)を明確に説明する「産業革命」像を形成することを目指す。
 ここで言う「事実」とは、過去の記録である史料や史料に基づく先行研究を意味する。史料や先行研究を適切に用いながら(歪曲や曲解をしないだけでなく、批判すべきところを批判しながら)各自が最も納得がいく「産業革命」像を形成し、(史料や先行研究の引用・解釈が適切か、第三者が検証できるように)出典を明記したレポートとして発表することができるようになることが、達成目標である。
授業計画/Lecture plan
1
授業計画/Class オリエンテーション【初回のみオンライン授業(オンデマンド型)】
事前学習/Preparation  産業革命とは、何時、どこで、誰によって、なぜ、どのようにして始まり、何をもたらした出来事なのか、現在の自分の考えをまとめる。
事後学習/Reviewing  「歴史研究」の目的と「厖大な数の見知らぬどうしも、共通の神話を信じることによって、首尾良く協力できる」ようになること(ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』英語版は2014年、河出書房新社、2016年、上巻、43頁)との違いについて、自らの考えをまとめる。
2
授業計画/Class 20世紀後半の日本で産業革命はどのように論じられてきたか
事前学習/Preparation  産業革命に関する高校の世界史の教科書などの説明で、疑問な点を列挙する。
事後学習/Reviewing  イギリス産業革命を「世界人類史の一大転機」・「人類史の分水嶺」とはみない(『過ぎ去ろうとしない近代 ヨーロッパ再考』山川出版社、1993年、11-13頁)のなら、何を人類(ホモ・サピエンス)の歴史の「一大転機」とみることができるのか、あるいは、そもそも人類の歴史に「一大転機」は存在しなかったのか、自らの見解をまとめる。
3
授業計画/Class 最初に産業革命について論じたフリードリヒ・エンゲルスとアーノルド・トインビーの研究とその背景
事前学習/Preparation  エンゲルスやカール・マルクスが提唱した社会主義/共産主義とは何か。その定義と評価について、自らの考えをまとめる。
事後学習/Reviewing  アダム・スミスの『国富論』の産業革命に対する影響について、自らの見解をまとめる。
4
授業計画/Class ウォルト・ホイットマン・ロストウの産業革命論とその背景
事前学習/Preparation  ロストウがアメリカ合衆国政府の高官として積極的に推し進めたベトナム戦争とは何であったのか。その原因と評価について、自らの考えをまとめる。
事後学習/Reviewing  ロストウの産業革命論をどのように評価することができるか(問題点や優れた点について)、自らの見解をまとめる。
5
授業計画/Class イマニュエル・ウォーラーステインの「産業革命」批判としての「近代世界システム」論とその背景
事前学習/Preparation  世界の貧富の格差の原因について、自らの考えをまとめる。
事後学習/Reviewing  ウォーラーステインの「産業革命」批判をどのように評価することができるか(問題点や優れた点について)、自らの見解をまとめる。
6
授業計画/Class アンドレ・グンダー・フランクの「近代世界システム論」批判とその背景
事前学習/Preparation  「西洋の勃興」の原因について、自らの考えをまとめる。
事後学習/Reviewing  フランクのウォーラーステインらに対する「ヨーロッパ中心主義」批判をどのように評価することができるか(問題点や優れた点について)、自らの見解をまとめる。
7
授業計画/Class ケネス・ポメランツの「大分岐」論とその背景
事前学習/Preparation  18世紀の中国とイギリスとの違いについて、自らの考えをまとめる。
事後学習/Reviewing  ポメランツの「グローバル経済を最も効率的に利用したものが勝利を手にした」との見解(「NHKスペシャル 戦国~激動の世界と日本~(2)ジャパン・シルバーを獲得せよ 徳川家康×オランダ」2011年7月5日放送での発言)をどのように評価することができるか(問題点や優れた点について)、自らの見解をまとめる。
8
授業計画/Class P・J・ケインとA・G・ホプキンズの「ジェントルマン資本主義」論とその背景
事前学習/Preparation  イギリスの〈ジェントルマン〉の政治的・社会的・経済的役割について、自らの考えをまとめる。
事後学習/Reviewing  ケインとホプキンズの「産業革命は、それ以前にすでに高度な成功を収めていた資本主義的システムの中から生まれてきた」との見解(『ジェントルマン資本主義の帝国Ⅰ』名古屋大学出版会、1997年、29頁)をどのように評価することができるか(問題点や優れた点について)、自らの見解をまとめる。
9
授業計画/Class パット・ハドソンの産業革命論とその背景
事前学習/Preparation  産業革命がもたらした最大の害悪について、自らの考えをまとめる。
事後学習/Reviewing  ハドソンの「産業革命期とそれ以降の工業地域の成功した拡大は臨界質量の達成にも依存していた(The successful expansion of an industrialising region during the industrial revolution period and beyond also depended on the achievement of critical mass)」と「臨界質量の達成から生じた」「相互依存的な多様性(interdependent diversity)」(『産業革命』未来社、1999年、151-173頁参照)に注目する産業革命論をどのように評価することができるか(問題点や優れた点について)、自らの見解をまとめる。
10
授業計画/Class 生活水準論争とその背景
事前学習/Preparation  何を基準に「生活水準」の高低を判断するのか、適切な尺度について、自らの考えをまとめる。
事後学習/Reviewing  〈「実質所得」を尺度とする富裕アプローチ〉、〈「幸福」や「欲望」を尺度とする効用アプローチ〉、〈「潜在能力」を尺度とする潜在能力アプローチ〉をそれぞれどのように評価するか(問題点や優れた点について)、自らの見解をまとめる。
11
授業計画/Class ロバート・C・アレンの「安い石炭と高い賃金」に注目する産業革命論とその背景
事前学習/Preparation  何を基準に「高い賃金」と判断するのか、適切な尺度について、自らの考えをまとめる。
事後学習/Reviewing  アレンの「労働力が高く石炭が安かったから」採用された技術による「18世紀イギリスの飛躍的技術革新」から「産業革命を説明する」見解(『世界史のなかの産業革命』1-2頁)をどのように評価することができるか(問題点や優れた点について)、自らの見解をまとめる。
12
授業計画/Class リチャード・ウィルキンソンの産業革命論とその背景
事前学習/Preparation  なぜ経済格差を解消し平等を目指すのか、その理由について考える。
事後学習/Reviewing  ウィルキンソンの講演、「いかに経済格差が社会に支障をきたすか」(TEDGlobal2011)を視聴する。
13
授業計画/Class ユヴァル・ノア・ハラリの産業革命論とその背景
事前学習/Preparation  第3次/第4次産業革命とは、何をどう変化させるものなのか、
事後学習/Reviewing  ハラリの「歴史書のほとんどは〔…〕社会構造の形成と解体、帝国の勃興と滅亡、テクノロジーの発見と伝播〔…〕が各人の幸せや苦しみにどのような影響を与えたのかについては、何一つ言及していない。これは、人類の歴史理解にとって最大の欠落と言える。私たちは、この欠落を埋める努力を始めるべきだろう」との主張(『サピエンス全史』河出書房新社、2016年、下巻、240頁、215頁参照)をどのように評価することができるか(問題点や優れた点について)、自らの見解をまとめる。
14
授業計画/Class 提出されたレポートの紹介と検討
事前学習/Preparation  13回目の授業(12月21日)までに提出した自らのレポートを読み返す。
事後学習/Reviewing  自らのレポートの不備な点を修正する。
15
授業計画/Class 提出されたレポートの紹介と検討と前期の授業のまとめ
事前学習/Preparation  13回目の授業(12月21日)までに提出した自らのレポートを再度読み返す。
事後学習/Reviewing  自らのレポートの不備な点を修正して再提出する。
授業方法/Method of instruction
【初回を除き、対面授業(通常型)】
成績評価方法/Evaluation
1 平常点 In-class Points 10%  リアクションペーパーなどを通じての授業の内容に対する質問・疑問等の指摘や意見の表明に対して評価する。
2 レポート Report 90%  (1)史料や先行研究を踏まえているか、(2)「参考書」に挙げた、代表的な先行研究のうち1冊を、最初から最後まで読んでいるか、(3)産業革命は「何時、どこで、誰によって、なぜ、どのようにして始まり、何時、どこの誰に、何をどのようにもたらした出来事なのか」を説明する産業革命像の提示ができているかの3点を基準に評価する。なお、先行研究など他人の見解に言及する際は、出典を頁(ページ)数まで明記することが重要(レポートが満たす必要がある不可欠の条件)であり、他人の見解の無断引用は厳禁とする。
参考書/Reference books
 著者名
Author
タイトル
Title
出版社
Publisher
出版年
Published year
ISBN価格
Price
 
1 長谷川貴彦著 産業革命 山川出版社 2012.11 9784634349544 729円+税 蔵書情報 / Library information
2 パット・ハドソン著 ; 大倉正雄訳 産業革命 未來社 1999.5 4624321596 4800円 蔵書情報 / Library information
3 E.J.ホブズボーム著 ; 浜林正夫,神武庸四郎,和田一夫訳 産業と帝国 未來社 1996.1 4624321502 7004円 蔵書情報 / Library information
4 ロバート・C・アレン著 ; グローバル経済史研究会訳 なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか NTT出版 2012.12 9784757123045 1900円+税 蔵書情報 / Library information
5 R.C.アレン著 ; 眞嶋史叙 [ほか] 訳 世界史のなかの産業革命 名古屋大学出版会 2017.12 9784815808945 3400円+税 蔵書情報 / Library information
6 K.ポメランツ著 ; 川北稔監訳 大分岐 名古屋大学出版会 2015.5 9784815808082 5500円+税 蔵書情報 / Library information
7 [エンゲルス著] ; マルクス=エンゲルス選集刊行会編 イギリスにおける労働者階級の状態 大月書店 1951.5 蔵書情報 / Library information