講義内容詳細:公共政策と法

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年度/Academic Year 2021
授業科目名/Course Title (Japanese) 公共政策と法
英文科目名/Course Title (English) Public Policy and Law
学期/Semester 前期 単位/Credits 2
教員名/Instructor (Japanese) 大沢 光
英文氏名/Instructor (English) OSAWA Hikaru

講義概要/Course description
(1)現代行政は、警察、環境、教育その他、様々な分野で活動しています。飲酒運転の取り締まりや食品・医薬品の安全性の確保のための規制、たばこのポイ捨て規制、公共料金規制、入国管理など、行政は、憲法や法令が私たちに保障している人権・権利に制約をかけつつ、私たちが個人の尊厳を保障され自由で自らの幸福を追求しうる社会生活を送ることができるよう、活動しています。また、そのような社会生活を私たちに保障するために、行政は、道路を作ったり補修したり、学校を作って教育を受けさせたり、保育所を作って働く人々の子どもの面倒を見たり、生活に困窮する人には必要な金銭を給付したりといった活動も行っています。
 このような活動を、行政がまったく行わなかったり、あるいは、必要以上の規制をかけたり、個人的な好き嫌いによって生活保護の給付をしたりするなどの誤ったやり方で行ったりしたら、私たちの社会生活は非常に制約され、困ったことになります。市町村がごみの収集に来なければ、非衛生的な環境の中で生活しなければならず、それによって伝染病が蔓延することになれば、私たちの生命身体の安全に重大な影響が及ぼされることになる、というのはその例です。
 そこで、私たちの社会生活のために、ひらたくいって私たちの人権保障のために、公共政策を実現する任務を負っている行政にいかにして適切な活動をさせるかが重要な法学的な課題となります。行政法学は、そのような問題関心から、行政活動の法的コントロールのあり方を考える学問といってよいでしょう。
(2)この講義では、公共政策のあり方について、(行政)法学の視点から考察します。行政活動に対する法的コントロールがどのような考え方に基づいてどのようにして加えられているのかを、具体的な事例を素材にしながら明らかにし、なぜそのような法的規律がなされているのかを考えてもらいます。こうした考察を踏まえて、公共政策の内容がどうあるべきか、また、いかなる内容を持つ公共政策がいかなるプロセスを経て決定されるべきなのかを法の視点から考えられるようになることを目標としています。
(3)毎回の講義の素材には裁判例を用いることが多いです。その際は、事例とそれをめぐる制度等を解説し、問題提起をしていきます。ゲスト講師をお迎えする回は、それぞれの先生のご専門の観点から現代社会のありようについて考察をしていただく予定です。
(4)現代社会に生起している様々な法現象を考察し、社会問題の所在を知り、公共の利益の実現がどのようにして図られているのか、図られるべきなのか、現在の公共政策に足りないものは何か、など、現代日本の公共政策のあり方を考える視点を養っていただきたいと思います。
達成目標/Course objectives
 この講義では、公共政策とそれを実現しようとする法制度の下でどのような社会問題が生じているのか、なぜそうした問題が生ずるのか、その解決のあり方について法の視点からするとどのように考えられるのか、そもそもなぜそうした法制度が創られているのかなど、公共政策とそれを実現する制度やその運用のあり方について考えます。こうした考察を通じて、公共政策の実現における法の役割について理解を深めていきたいと思っています。
 そこで、講義の具体的な達成目標は、(1)公共政策の実現を目指した法制度の下でどのような社会問題が生じているのかを認識し、なぜそうした問題が生じているのか、その理由を考えられるようになること、(2)行政活動に対する法的コントロールがどのような基本的な考え方に基づいてどのようにして加えられているのかを理解し、説明できること、(3)公共政策及びそれを実現する制度それ自体のあり方や制度の運用がどうあるべきかを法的な視点から考えられるようになること、の3点とします。
履修条件(事前に履修しておくことが望ましい科目など)/Prerequisite
2021年度入学生のうち「公共政策」コースを志望する者は、必ずこの講義を受講してください。
授業計画/Lecture plan
1
授業計画/Class はじめにーガイダンス *オンライン授業(オンデマンド型)で実施。
事前学習/Preparation なし。
事後学習/Reviewing 資料収集の仕方について確認しておく。
2
授業計画/Class 「法律の根拠」ってなに?—浦安漁港ヨット係留用鉄杭強制撤去事件(最二判平成3年3月8日民集45巻3号164頁)
事前学習/Preparation 講義ノートに出てきた用語等を法律用語辞典や参考書等で確認しておく。
事後学習/Reviewing 講義ノートの振り返り。
3
授業計画/Class 信義誠実な行政って?—在ブラジル被爆者訴訟(最三判平成19年2月6日民集61巻1号122頁)
事前学習/Preparation 前回出てきた用語を理解しておく。
事後学習/Reviewing 講義ノートの振り返り。判決文の読み方等を復習する。
4
授業計画/Class ダム建設でアイヌの遺跡が沈んでしまっても仕方ない?(前編)-二風谷ダム訴訟(札幌地判平成9年3月27日判例時報1598号33頁)
事前学習/Preparation 用語辞典などで用語の確認をしたり、指定した新聞記事などを読む。
事後学習/Reviewing 講義ノートの振り返り。
5
授業計画/Class 同上(後編)
事前学習/Preparation 前回のレジュメを読み、事案の構造を理解しておく。
事後学習/Reviewing 問題について考える。
6
授業計画/Class 都市と法(仮)(ゲスト講師)
 本学部の行政法の先生にお越しいただき、都市と法をテーマにお話ししていただく予定です。
事前学習/Preparation レジュメを読み、時事的な問題にアンテナをひろげておく。
事後学習/Reviewing 講義内容を復習し、提起された問題について考える。
7
授業計画/Class 行政組織の作られ方!-行政組織の存在理由とその統制のあり方を考えよう
事前学習/Preparation 新聞記事を読む。これまでに出てきた用語の復習をしておく。
事後学習/Reviewing 講義の振り返りをする。
8
授業計画/Class なぜ情報公開が必要なの?-情報公開と公文書管理をめぐって+中間テスト *オンライン授業(オンデマンド型)で実施の予定。
事前学習/Preparation これまでの講義の復習をしておく。
事後学習/Reviewing 講義及び中間テストの振り返り。
9
授業計画/Class  「健康で文化的な最低限度の生活」水準は誰が決めるの?—生活保護老齢加算廃止訴訟(東京地判平成20年6月26日判例時報2014号48頁)
事前学習/Preparation レジュメ・資料を読んでおく。
事後学習/Reviewing 講義の内容を復習し、問題について理解を深める。
10
授業計画/Class コロナ禍に向き合う働き方って?(仮)―労働法学から見た労働政策の課題(ゲスト講師)
 本学部の労働法の先生にお越しいただき、労働法学の観点から、働き方をめぐる近年の法政策についてお話ししていただく予定です。
事前学習/Preparation レジュメを読んでおく。時事的なニュースにアンテナをひろげておく。
事後学習/Reviewing 講義の内容を復習し、取り上げられた事柄について、さらに理解を深める。
11
授業計画/Class  食品汚染による健康被害の拡大を防がなかった行政の責任は?-カネミ油症第3陣訴訟(福岡地裁小倉支部判昭和60年2月13日判例時報1144号18頁)
事前学習/Preparation 新聞記事を読む。
事後学習/Reviewing 講義の内容を復習し、この事件への現在の対応を調べてみる。
12
授業計画/Class “公益”(?)のためなら我慢せよ?-第1次厚木基地騒音公害訴訟(最一判平成5年2月25日民集47巻2号643頁)
事前学習/Preparation レジュメ・資料を読む。
事後学習/Reviewing 講義を振り返り、問題について考えを深める。
13
授業計画/Class 気候危機!!-地球環境保全の取り組みはどのように進められてきたか?(仮)(ゲスト講師)
 外部の国際法の先生にお越しいただき、地球環境保全の法的枠組みについてお話をしていただきます。
事前学習/Preparation レジュメを読んでおく。時事的なニュースにアンテナを張っておく。
事後学習/Reviewing 内容を復習して、問題について理解を深める。
14
授業計画/Class 原子力政策と法(前編)―被災者の”帰還”をめぐって
事前学習/Preparation 新聞記事や資料などを読む。
事後学習/Reviewing 講義の内容を復習し、取り上げられた事柄について、さらに調査を深める。
15
授業計画/Class 同上(後編)-原発の立地・再稼働と地方自治、おわりに―期末テスト
事前学習/Preparation レジュメ・資料等を読む。これまでの復習をする。
事後学習/Reviewing これまで学んできた社会問題について、改めて思考をめぐらせ、講義の到達目標に照らして、何を学べたのか、書いてみる。
授業方法/Method of instruction
 ・対面授業(通常型)。ただし、オンライン授業を取り入れる日もあります。オンライ授業実施日はCoursePower、授業等で改めて指示します。
 ・講義ノート及び資料をCourse Power上で事前に配布します。必ず講義前に一読してください。
 ・毎回、「本日のテーマ」と「本日学ぶこと」を示しますので、それに留意しながら講義ノートを読み、参考書や資料を確認しつつ、テーマについて学び、考えていただきます。
  *講義計画は、現段階では仮のものです。講師の先生方のご都合により、順序が変更になる場合もあります。また、ガイダンスで確定した日程をお知らせする予定です。
成績評価方法/Evaluation
1 平常点 In-class Points 45% 毎回の受講票の提出及びミニレポートの提出で評価します。レポートについては、ガイダンスにおいて述べます。
2 試験 Exam 55% 中間及び期末の2回に分けてテストを行う予定です。
教科書/Textbooks
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1 とくに指定しません。行政法や公共政策論について学びたい方は、参考書に掲げた文献を参照してください。
参考書/Reference books
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1 藤田宙靖 行政法入門[第7版] 有斐閣 2016年 簡単に読めそうなもののみ挙げておきます。
2 下山憲治・友岡史仁・筑紫圭一 行政法 日本評論社 2017年 1,800円(税抜き) 図書館のデータベース(eBoook)に入っていますので、オンライン上で読めます。借りださずに、参照するだけにとどめてください。
3 深澤龍一郎・大田直史・小谷真理編 公共政策を学ぶための行政法入門 法律文化社 2018年 2,500円(税抜き) 「公共政策の策定と実現の過程において、行政法がどのように役立っているのかを理解してもらう」(はしがき)ことを第一の目標としている教科書です。執筆スタイルは、本講義のスタイルに類似するので、公共政策と法について考える際に参考になるのではないかと思います。
4 松田憲忠・三田妃路佳編 対立軸でみる公共政策入門 法律文化社 2019年 2,500円(税抜き) こちらも、執筆スタイルは、本講義のスタイルに類似するので、公共政策と法について考える際に参考になるのではないかと思います。もっとも、3とは異なり、政治学及び行政学の研究者が執筆しています。
5 大橋洋一 行政法(第2版) 有斐閣 2017年 実際に起きた事件などを素材に、グラフや新聞記事などを用いながら、行政法の基本的な事柄を解説しています。本講義のスタイルに近い本です。
メッセージ/Message
 この講義では、時事的な問題にも適宜触れたいと考えています。とくに、近時のコロナ禍現象は、私たちの社会を大きく揺り動かし、それに対応して、公共政策のあり方にも変容が迫られています。この講義では、コロナ禍に対応する公共政策のあり方を直接テーマとする回はほとんどありませんが、この講義でみなさんが学ばれる法的なものの見方は、今世の中で起きていることの法的意味を認識し、解決のありかたを考える手がかりの一つとなるでしょう。関係するテーマの回では、できるだけ、最新の時事的な問題にも触れていきたいと思います。皆さんの視野を広げるために、日常的に新聞等を読むなど、アンテナを張っておいてください。
 新聞記事は、基本的に、図書館のデータベースから自分で探していただきます。これを機会に、新聞記事や参考文献が上手に見つけられるようになってください。
その他/Others
 六法(ポケット版の六法でよい)を参照してください。みなさんの六法に掲載されていない条文は、こちらで配布しますが、ネット上で検索していただくこともあります。
キーワード/Keywords
行政法     行政手続     公共政策     政策決定     法律による行政の原理     行政裁量     生活保護     労働時間規制     公共事業     原発設置許可     地方自治     地球環境保全     国家賠償