講義内容詳細:キリスト教政治倫理
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学部・研究科のディプロマポリシー/
Undergraduate and Graduate Diploma Policy
科目ナンバリングについて/
About Course Numbering
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年度/
Academic Year
2022
授業科目名/
Course Title (Japanese)
キリスト教政治倫理
英文科目名/
Course Title (English)
Christianity and Politics
学期/
Semester
後期
単位/
Credits
2
教員名/
Instructor (Japanese)
瀧 章次
英文氏名/
Instructor (English)
TAKI Akitsugu
講義概要/
Course description
この講義は現代社会の政治、倫理に関心のある受講者を対象とするものです。特にキリスト教の視点から考えてみることに、肯定的にであれ否定的にであれ、関心のあるすべての人に開かれています。内容としてはすでに答えのある知識の暗記・習熟を目的とするものとは異なります。したがって、数学における微積分のような一分野の演習や、資格試験準備のようなものとは性格を異にします。倫理も政治も、教室の外においてわたしたちがこれからの人生において、また今日も、今この瞬間も、試される実践の場です。確かに親しみのないことがらと身構えてしまうかもしれません。政治や倫理という難しいことは考えなくても生きていけると思われるかもしれません。たとえば難民の受け入れや憲法改正の是非について問われたとすると、自分自身の判断を棚上げするだけでなく、さらに、判断を専門家などだれか他人に任せて日常を生きているかもしれません。そればかりか、ひょっとして、他人任せで生きることが、社会的にどんな意味をもつのか考えることすら気にかかっていないかもしれません。そのような場合ですら、わたしたちは、そのような他人任せの生き方を、消極的とはいえ、選択しているともいえないでしょうか。社会的に生きている以上、直接間接にわたしたちが試されている、このような選択について、近づきがたくても避けて通れない自分自身の社会的責任について、わたしたちはどのように応答すればよいのでしょうか。パンデミックで2年もの間今までとは異なる社会生活を送ってこられたみなさまは社会について、政治について、そして自分の大学について、何も意見も考えも不満もない、そんなことはないのではないかと想像します。パンデミックで社会的生存権が脅かされているひと、国民皆保険制度であるにもかかわらず医療にかかることなく命を絶たれたひとは、みなさんの身の回りにはいらっしゃらなかったでしょうか。もし自分たちの視野に入ってこなかったとしたら、「命の権利」を保障することにわたしたちはどうかかわってきたことになるのでしょうか。また2022年4月から日本では「成人」の規定も変わります。社会の一員としての責任はどういうことになるのでしょうか。本講義では、こうした社会の共に生きているひとや隣人たちに対する、自らの社会的責任に関する問いを自らの問いとして引き受け考えることが政治や倫理の学びの第一歩と考えています。本講義では、このような政治や倫理について、現代を生きるわたしたちの現実に沿って、考えを深めていきたいと考えています。とりわけて、現実的実践的選択の問題の中で、キリスト者として生きるという選択が、現代においてどのような可能性をもつのか、ともに問うていきたいと思います。この問いの場においては、キリスト者であることを前提として問題を問うことが一部の限られたひとびとにのみあてはまるものにすることはしません。受講者がたとえば非キリスト者として抱く疑問、あるいは、異なる信仰の生き方からキリスト者に抱く疑問をも、みなで問いを分かち合い、応答を試みたいと考えます。そればかりか、現在、過去のキリスト者を自認する人々の生き方に対する、キリスト者以外からの批判、あるいはキリスト者自身からの批判をも提起して行きたいと思います。キリスト者として生きることが現在の政治、倫理においてなおいかなる可能性を切りひらくのかを批判的に自分自身で考えることが講義を聴き問題を分かち合うことの意義です。できるだけ、具体的な問題に触れて考える意味で、現代社会を特徴付ける科学的合理主義、代議制民主主義、市場経済中心主義(とりわけ人間の社会的生存基盤を危機的な状況に陥らせている私たちの日々の消費社会)の問題を考え、その議論の中でキリスト教政治倫理の可能性を考えて行きたいと思います。特にこの一年、世界は国境を超えた福祉社会を築いていく世界共和的な可能性に披かれているのか、この問題も考えていきたいと思います。
達成目標/
Course objectives
受講者が現代社会において国境を越えた地球市民、世界市民としてのよき生き方を考えて行く手がかりを得て今後の実人生につなげていくことを目標とします。具体的には、第一に、わたしたちが集団として生きている以上直接間接に自らの選択を問われ自らの生き方そのものが問われる政治や倫理についてどのように応答して行けばよいか、今までの自分の考えを振り返り、それぞれの与えられた場にあって、より自覚的に考え生きていけるようになることが目標です。第二に、キリスト者として生きることがそのような実践の場でどのような可能性を持っているのか、今後考え、その可能性を参照しつつ生きて行くための導きをそれぞれに得ることが更なる目標です。
履修条件(事前に履修しておくことが望ましい科目など)/
Prerequisite
もちろん政治学や倫理学、キリスト教倫理に関する本を読むことは理解を高めることになります。しかし、もっと身近なこととしては、「私」ではなく、「わたしたち」、「われわれ」という言葉を用いて、集団に対して責任を持って判断し行動している場面について、家族や友人やクラブなどでの自分自身の過去・現在の経験、また、身の回りやニュースなど社会で用いられている事例に注意してみましょう。例えば、パンデミック下、この一年を通して社会を共に形成している日本国内で暮らしているひとびとに対する共感や反感、世界のほかの国で暮らす人の悲しみや苦しみに対する思い、こういうみなさんに心の中に通り過ぎた出来事をよく振り返ってみてください。今年も日本では国政選挙があります。国会や選挙運動でで政治家の人たちがどんな言葉遣いをしているか聴いてみましょう。こうしたさまざまな場で用いている言葉遣いで、私たちは何をしているのか、その言葉遣いに違和感なく共感することがあるとすればそれはどうしてなのか、考えてみることが政治や倫理を考えて行くいとぐちになると思います。もしキリスト教に関心があるならば「主の祈り」(pater noster)の「われわれ」とは何かと改めて考えてみてもよいでしょう。同じく「みくにを来たらせたまえ」とは、どこになにがやってくることを願う祈りなのか、改めて考えてみることもよいでしょう。
授業計画/
Lecture plan
1
授業計画/
Class
オンライン授業【オンデマンド型】での実施。イントロダクション:講義概要、達成目標、授業運営方法、成績評価方法を説明する。特に、政治、倫理、宗教また参照軸としての科学というものについて、改めて考えていくために、日常の私たちの抱いている通念、イメージを洗いなおして、何をどのように考えて行くことが現代を生きて行くうえで意義あることなのかを準備として考える。
2
授業計画/
Class
倫理的命令の起源と正当性(1)―聖典宗教において命令はいかに引き出されることができるかー信仰者の外に立った外在的理解
3
授業計画/
Class
倫理的命令の起源と正当性(2)―聖典宗教において命令はいかに引き出されることができるかー信仰者の内側に立った内在的理解―キリスト者の現実社会に対する関与はどのようにして正当化されるか
4
授業計画/
Class
科学的合理主義にキリスト教政治倫理はどのように応答することができるか(1)―科学的合理主義とは何かー科学的合理主義による、政治、倫理、宗教の位置づけ
5
授業計画/
Class
科学的合理主義にキリスト教政治倫理はどのように応答することができるか(2)―古典的物理学的世界観の限界とアインシュタインの相対性理論の意味―幾何学、数学、論理学の厳密性の根拠―科学的合理主義の限界
6
授業計画/
Class
科学的合理主義にキリスト教政治倫理はどのように応答することができるか(3)―人文学(humanities)の復権―政治、倫理、宗教の意義の再考―科学的合理主義の限界点においてキリスト教政治倫理の果たす役割(キリスト教自体の内在的批判と世界に拓かれた革新の可能性とそれらの意味)
7
授業計画/
Class
ディスカッション(1)(中間総括)
8
授業計画/
Class
現代社会の市場経済中心主義にキリスト教政治倫理はどのように応答することができるのか(1)―市場経済とはなにかーいつからどこで始まったのかー市場で売り買いすることとはどのような集合的な価値形成かー市場のしくみが
資源
を適正に効率的に配分することの理論的な条件は何か
9
授業計画/
Class
市場経済の優れた点とそれがもたらす社会的問題についてまとめておく。できれば過去の提案されたそれらの問題の解決策についても調べてみる。
10
授業計画/
Class
現代社会の市場経済中心主義にキリスト教政治倫理はどのように応答することができるのか(3)―各国政府が国際分業体制の元で経済成長第一主義を掲げる理由と問題点―市場経済中心主義の限界を超えて将来世代を含めた人類的連帯(solidarity)を求めることの必要性(sustainabilityの要請)―新たな人類的連帯を形成して行く上でのキリスト者のはたらきの可能性
11
授業計画/
Class
ディスカッション(2)(中間総括)
12
授業計画/
Class
現代社会の民主主義にキリスト教政治倫理はどのように応答することができるか(1)ー倫理学における倫理的価値の普遍化の問題をふりかえるー倫理的価値の集団的社会的決定の顕在的過程として民主主義の意義を他の形態と比較して、その功罪を再考する
13
授業計画/
Class
現代社会の民主主義にキリスト教政治倫理はどのように応答することができるか(2)ーカントの目的の王国の現実的過程として理念的に目指される世界共和主義、絶対平和は可能かーわたしたちは武器を捨て、憎しみの連鎖を断ち、絶対的な平和へと歩むことができるか。
14
授業計画/
Class
現代社会の民主主義にキリスト教政治倫理はどのように応答することができるか(3)-熟議民主主義/討議倫理学の意義とグローバル社会における限界-世界共和制原理におけるキリスト者の果たすべき役割
15
授業計画/
Class
最終総括としてのディスカッション(3)
事前学習/
Preparation
授業全体に関する講義資料は事前にコースパワーを通して配布します。講義資料の中でも、また、講義の中で、あるいは、講義に関連して、議論の対象となる資料については、資料を解説する視聴ファイルを作成して、コースパワーで配布します。講義で議論することがらの基になる原典が何であるか理解し、また、その内容を予め予習しておくことが、講義内容に対して、主体的に、批判的に、問うていく姿勢が備えられて行きます。
事後学習/
Reviewing
授業については、録音または録画ファイルを作成して、記録として、コースパワーで配布します。また、授業ですべて議論できなかった場合でも、講義に関連する講義資料については、その解説の視聴ファイルを作成して、コースパワーを通して配布します。これらを適宜利用し、講義内容に関して理解が行き届かなかったことや、疑問に思ったことについて、再確認して、理解をこころみてください。特に、疑問に思うことは、メール等コースパワーの諸機能を用いて積極的に教員に提起してください。
授業方法/
Method of instruction
区分/
Type of Class
対面授業 / Classes in-person
実施形態/
Class Method
通常型 / regular
活用される授業方法/
Teaching methods used
プレゼンテーション
presentation
PBL(課題解決型学習)
project-based learning
反転授業(知識習得の要素を教室外に済ませ、知識確認等の要素を教室で行う授業形態)
reverse teaching(a class style where students educate themselves out of class beforehand, and use the class period to confirm the knowledge one has gained.)
ディスカッション、ディベート
discussion / debate
グループワーク
group work
実習、フィールドワーク
field work
上記に該当しない
none of the above
成績評価方法/
Evaluation
1
レポート Report
60%
2回、授業内容に関連した、論述課題を実施します。実施に当たっては、2週間前には、提出期限を予告します。課題の授受はコースパワーを用います。
2
平常点 In-class Points
40%
各回の講義内容に関するレスポンスや、小論課題の内容を評価します。
教科書/
Textbooks
コメント
Comments
1
特に設けない。講義全体の資料は事前にコースパワーによりPDF資料として配布する。そのほか、講義に関連した予習・復習の視聴ファイルをコースパワーを通じてリンク先により配布する。
参考書/
Reference books
著者名
Author
タイトル
Title
出版社
Publisher
出版年
Published year
ISBN
価格
Price
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1
original editions selected and edited by Henry Bettenson ; third and fourth editions edited by Chris Maunder
Documents of the Christian church
Oxford University Press
2011.
9780199568987
£16.99
参考書は講義の内容をより深く理解していただくためのものを取り上げました。一冊でも手に取っていただければ幸いです。
蔵書情報 /
Library information
2
イマヌエル・カント著 宇都宮芳明訳
永久平和のために
岩波書店
1985
638
3
イマヌエル・カント
人倫の形而上学 (カント全集 第11巻)
理想社
1969
『人倫の形而上学』は岩波書店の全集にも収められています。
4
イマヌエル・カント著 ; 原佑訳
純粋理性批判
平凡社
2005.2
4582765270
1800円
蔵書情報 /
Library information
5
カント [著] ; 波多野精一, 宮本和吉訳 ; 篠田英雄 [改訳]
実践理性批判
岩波書店
1979.12
400336256X
450円
蔵書情報 /
Library information
6
カント著 ; 篠田英雄訳
判断力批判
岩波書店
1964.1
4003362578
蔵書情報 /
Library information
7
Hegel, G.W.F.
Enzyklopaedie der philosophischen Wissenschaft 1830
Felix Meiner Verlag
1969
『自然哲学』については長谷川宏先生の訳もございます。
8
Hegel, G.W.F.
Grundlinien der Philosophie des Rechts
Suhrkamp
1970
3518282077
2,593
岩波書店の文庫『法の哲学』、中央公論社、世界の名著『ヘーゲル』もご利用ください。
9
プラトン著 ; 藤沢令夫訳
国家
岩波書店
1979.4
4003360176
500円
蔵書情報 /
Library information
10
プラトン著 ; 森進一, 池田美恵, 加来彰俊訳
法律
岩波書店
1993.2
4003360206
760円
蔵書情報 /
Library information
11
アリストテレス [著] ; 牛田徳子訳
政治学
京都大学学術出版会
2001.2
4876981248
4200円+税
蔵書情報 /
Library information
12
[アリストテレス著] ; 神崎繁訳
ニコマコス倫理学
岩波書店
2014.8
9784000927857
6000円+税
蔵書情報 /
Library information
13
アウグスティヌス [著] ; 加藤武訳
キリスト教の教え
教文館
1988.7
4764230062
3800円
蔵書情報 /
Library information
14
アウグスティヌス [著] ; 服部英次郎訳
神の国
岩波書店
1982.3
4003380533
蔵書情報 /
Library information
15
マルティン・ルター著 ; 石原謙訳
キリスト者の自由 ; 聖書への序言
岩波書店
1955.12
4003380819
310円(本体301円)
蔵書情報 /
Library information
16
ジャン・カルヴァン著 ; 渡辺信夫訳
キリスト教綱要
新教出版社
2007.8
9784400301080
4500円
蔵書情報 /
Library information
17
マックス・ヴェーバー著 ; 大塚久雄訳
プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神
岩波書店
1991.12
4000070916
1200円
蔵書情報 /
Library information
18
南原繁著
國家と宗教
岩波書店
1946.
蔵書情報 /
Library information
19
佐々木力著
科学革命の歴史構造
岩波書店
1985.
4000051741
3000円
蔵書情報 /
Library information
20
佐々木毅 [著]
アメリカの保守とリベラル
講談社
1993.5
4061590723
780円
蔵書情報 /
Library information
21
宇沢弘文著
社会的共通資本
岩波書店
2000.11
4004306965
660円+税
蔵書情報 /
Library information
22
篠原一著
市民の政治学
岩波書店
2004.1
4004308720
700円
蔵書情報 /
Library information
23
J.E.スティグリッツ著 ; 薮下史郎訳
公共部門・公共支出
マグロウヒル出版
1989.9
4895013111
3800円
蔵書情報 /
Library information
24
J.E. スティグリッツ著 ; 薮下史郎訳
公共部門・公共支出
東洋経済新報社
1996.8
4492312307
蔵書情報 /
Library information
25
佐々木毅著
政治学は何を考えてきたか
筑摩書房
2006.12
4480863745
2800円+税
蔵書情報 /
Library information
26
神野直彦著
財政学
有斐閣
2007.4
9784641162983
3200円+税
蔵書情報 /
Library information
27
神野直彦著
システム改革の政治経済学
岩波書店
1998.6
4000262629
2300円
蔵書情報 /
Library information
28
神野直彦著
「分かち合い」の経済学
岩波書店
2010.4
9784004312390
720円+税
蔵書情報 /
Library information
29
金子勝著
市場と制度の政治経済学
東京大学出版会
1997.9
4130401580
3400円+税
蔵書情報 /
Library information
30
河島幸夫著
ドイツ現代史とキリスト教
新教出版社
2011.3
9784400212232
3000円+税
蔵書情報 /
Library information
31
J.H.ヨーダー著 ; 佐伯晴郎, 矢口洋生訳
イエスの政治
新教出版社
1992.8
4400424022
3500円
蔵書情報 /
Library information
32
Richard B. Hays
The moral vision of the New Testament
HarperSanFrancisco
1996.
006063796X
蔵書情報 /
Library information
33
Mary Heather MacKinnon and Moni McIntyre, editors
Readings in ecology and feminist theology
Sheed & Ward
1995.
9781556127625
蔵書情報 /
Library information
メッセージ/
Message
21世紀を生きるよき世界市民として、地球のさまざまな地域で起きているできごとに対する想像力を高め、失敗を恐れず行動し、さまざまな人々と国境を越えて分かち合い、対話の回路を築いていきましょう。特に2022年現在、地球上における人類の社会的生存基盤の危機的状況について、理解を広げ、自分たち自身の消費社会の問題を自覚的に捉え直して行きましょう。
キーワード/
Keywords
キリスト教
聖典宗教
倫理学
政治学
財政民主主義
科学的合理主義
民主主義
市場経済
消費社会
気候危機
社会的生存基盤