講義概要/Course description
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本講座では、「ビジネスと人権」に関する理論と実務を学びます。SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)に関する実務との関係についても理解を深めます。 グローバルな企業活動が労働者・地域住民・消費者などのステークホルダーの人権に対して負のインパクトを与える可能性に関する社会意識の高まりを受けて、2011年に、国連人権理事会において「ビジネスと人権に関する指導原則」が承認されました。指導原則は、企業に対し、サプライチェーンなどの取引関係を通じてステークホルダーの人権への負の影響を評価・対処する人権デュー・ディリジェンス(人権DD)を要請しています。人権DDの概念は、他の国際規範、国内の法規制、調達基準・投融資基準などの取引ルールなどにも組み込まれ、環境分野も含んだ人権・環境DDに拡大し、企業活動にも多大な影響を与えています。企業がSDGs/ESG経営を実践していくにあたっても、人権DDは中核的な取組の一つになっています。 企業が直面する人権課題は、差別やハラスメントの問題にとどまりません。例えば、強制労働・児童労働、外国人技能実習生問題、気候変動、プライバシーなど様々な環境・社会課題が含まれています。 本講座では、このような課題を、企業及びその他のステークホルダーが対話・協働を通じてどのように対処していけるかに関し、講師のサステナビリティ・コンプライアンス分野での実務経験もふまえ、具体的な事例を交え、講義を行います。受講生の皆さんの課題解決に向けた実践力を高めるために、可能な限り双方向の授業とし、企業・NGO間の対話・交渉のシミュレーションや事例研究に関するグループワークなども実施する予定です。
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達成目標/Course objectives
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「ビジネスと人権に関する指導原則」の内容や実務への影響、SDGs/ESG経営における人権DDの意義や実践方法に関して受講生の皆さんの理解を固めます。 その上で、受講生の皆さんが、将来、企業・金融機関・行政・国際機関・NGO・法曹など様々な立場において、対話・協働を通じた実務的な課題解決に向けて積極的な役割を果たすための実務能力の基礎を養うことを目標とします。 問題の分析・調査・解決、関係者との交渉・説得、チーム内での連携・分担における工夫についても、ケーススタディ・シミュレーション・グループワークを通じて習得を目指します。
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履修条件(事前に履修しておくことが望ましい科目など)/Prerequisite
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ビジネス法や国際人権法の分野の基礎を習得していた方が、より一層関心をもって授業に臨めるという点では望ましい部分もあります。しかし、前提知識は必須ではなく、積極的に授業や課題に参加していただくことが重要です。
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授業計画/Lecture plan
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1
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授業計画/Class |
オリエンテーション:「ビジネスと人権」を学ぶ意義とは?SDGs・ESGとの関わりを含めて解説(オンライン(オンデマンド型)で実施)
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2
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授業計画/Class |
講義:「ビジネスと人権」、SDGs、ESGに関する重要概念・ルール・視点を押さえる |
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3
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授業計画/Class |
講義:SDGs/ESG経営の実践における人権デュー・ディリジェンスの意義を学ぶ |
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4
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授業計画/Class |
講義:指導原則を含む人権デュー・ディリジェンスのルール形成の動向と実務を学ぶ |
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5
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授業計画/Class |
事例研究:事例を通じて人権デュー・ディリジェンスの実践方法を学ぶ |
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6
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授業計画/Class |
講義:「ビジネスと人権」に関する国内外の訴訟の動向や企業の苦情処理メカニズムの意義について学ぶ |
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7
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授業計画/Class |
シミュレーション:事例を通じてステークホルダ―の苦情申立・問題提起への対応方法を学ぶ |
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8
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授業計画/Class |
講義:日本企業・政府における「ビジネスと人権」に関する取組の実際と課題 |
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9
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授業計画/Class |
シミュレーション:企業・NGO間の対話・交渉シミュレーションの実施 |
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10
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授業計画/Class |
シミュレーション:企業・NGO間の対話・交渉シミュレーションの報告・講評 |
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11
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授業計画/Class |
講義:企業における社会的に脆弱な人々の人権尊重・支援のあり方を学ぶー女性・性的少数者・障がい者・子ども・外国人など |
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12
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授業計画/Class |
講義:「ビジネスと人権」に関する最新論点を学ぶーコロナ危機、気候変動、外国人技能実習生問題、紛争地域と人権、AIと人権 |
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13
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14
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15
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授業計画/Class |
総括:「ビジネスと人権」の視座を私たちの生活・仕事・社会でどのように生かすか? |
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事前学習/Preparation |
各授業の前に、文献の確認や課題の検討をお願いします。 |
事後学習/Reviewing |
リアクション・ペーパーの提出をお願いすることがあります。 |
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授業方法/Method of instruction
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区分/Type of Class |
対面授業 / Classes in-person
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実施形態/Class Method |
通常型 / regular
補足事項/Supplementary notes 受講生のみなさんに、事前に具体的な事例・課題を提示し、参考文献などをふまえて対応方法を考えてもらい、授業の中で双方向のディスカッションを行う予定です。 企業・NGO間の対話・交渉のシミュレーションでは、企業・NGOなどのチームに分かれて、特定の「ビジネスと人権」課題の解決に向けた対話・交渉を行い、その方法や課題を実体験を通じて学んでもらいます。 グループワークは、特定の企業やステークホルダーが直面している特定の「ビジネスと人権」課題に関して、チームで調査検討を行った上で、解決案を取りまとめて、発表してもらう予定です。 なお、授業は、特段の事情がない限り、対面式で実施する予定です。
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活用される授業方法/Teaching methods used |
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成績評価方法/Evaluation
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1 |
レポート Report
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40%
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期末レポートに関して、知識量ではなく、論理的・説得的・独創的か否かといった視点から評価します。
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2 |
平常点 In-class Points
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30%
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授業・ディスカッション・シミュレーションへの参加・貢献の状況から評価します。
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3 |
その他 Others
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30%
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グループワークに関して、成果物の内容及びチームへの貢献度から評価します。
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教科書/Textbooks
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| 著者名 Author | タイトル Title | 出版年 Published year | 価格 Price | コメント Comments |
1 |
財団法人アジア・太平洋人権情報センター
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ビジネスと人権に関する指導原則 和訳
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2011年
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無料
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https://www.hurights.or.jp/japan/img/hrc1731framework.pdf
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2 |
国際連合人権高等弁務官事務所
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ビジネスと人権に関する指導原則 英語原文
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2011年
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無料
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https://www.ohchr.org/documents/publications/GuidingprinciplesBusinesshr_eN.pdf
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3 |
日本弁護士連合会
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人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)
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2015年
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無料
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https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2015/opinion_150107_2.pdf
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4 |
OECD
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責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス
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2018年
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無料
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https://mneguidelines.oecd.org/OECD-Due-Diligence-Guidance-for-RBC-Japanese.pdf
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5 |
日本政府
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ビジネスと人権に関する行動計画
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2018年
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無料
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https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_001608.html
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参考書/Reference books
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| 著者名 Author | タイトル Title | 出版社 Publisher | 出版年 Published year | 価格 Price | コメント Comments | |
1 |
財団法人企業活力研究所
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新時代の「ビジネスと人権」のあり方に関する調査研究報告書
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2019年
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無料
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http://www.bpfj.jp/act/download_file/98193838/69707541.pdf
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2 |
高橋大祐
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グローバルコンプライアンスの実務
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金融財政事情研究会
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2021年
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3960円
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https://store.kinzai.jp/public/item/book/B/13985/
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メッセージ/Message
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この講義を通じて、受講者の皆さんが、「Practical Idealist(実践的な理想主義者)」として、ご自身の夢や理想を実現する一歩を踏み出されることを少しでも応援できればと思っています。
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その他/Others
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講師は、弁護士として、企業・金融機関に対し,「ビジネスと人権」を含むグローバルコンプライアンス分野の法的助言・紛争解決を担当しています。また、企業の社外役員・サステナビリティ委員会委員・サステナビリティ関係のアドバイザー、苦情処理メカニズムの助言委員などの立場で企業のSDGs/ESG経営をサポートする経験も有しています。このような経験もふまえて、企業における「ビジネスと人権」やSDGs/ESG経営の実践方法やその課題について講義します。 また、講師は、日本弁護士連合会において,弁護士業務改革委員会CSRと内部統制PT副座長として「ESGガイダンス」「人権DDガイダンス」の策定に関わりました。現在、国際法曹協会(IBA)ビジネスと人権委員会Vice Chairも務めています。OECD金融企業局責任ある企業行動センター・コンサルタント,外務省「ビジネスと人権に関する行動計画に係る作業部会」構成員などの公職を務めた経験も有しています。以上のような公的活動の経験をふまえて、企業とステークホルダーの対話・協働やルール形成のあり方についても講義で解説します。
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キーワード/Keywords
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ビジネスと人権
SDGs
ESG
コンプライアンス
実務経験
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