講義内容詳細:人権法特論A/人権法Ⅰ

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年度/Academic Year 2022
授業科目名/Course Title (Japanese) 人権法特論A/人権法Ⅰ
英文科目名/Course Title (English) Topics in Human Rights Law A/Human Rights Law Ⅰ
学期/Semester 前期 単位/Credits 2
教員名/Instructor (Japanese) 森本 麻衣子
英文氏名/Instructor (English) MORIMOTO, Maiko

講義概要/Course description
昨年(2021年)夏、アメリカのアフガニスタンからの完全撤退とそれに伴う混乱は、アメリカの力の低下を強く印象づけました。タリバン復権後、干ばつと経済制裁に苦しむアフガニスタンでは、人口の半数が深刻な飢えに直面し、100万人の子どもが飢餓が原因で死ぬおそれがあると、このシラバスの原稿を書いている2022年1月の時点で国連が警告しています。今世紀になってアメリカが始め(て日本も支持し)た「テロとの戦い」の帰結のひとつがここにあります。

これ以外にも、2021年の現在、戦争・紛争にまつわる様々な喫緊のトピック(ロシアがウクライナに軍事侵攻する可能性、台湾情勢、世界各地の様々な紛争やそこから生み出される難民etc.)には事欠きません。しかし、「戦争・紛争と人権」を副題とする本講義は、あえて、前世紀(20世紀)における戦争・紛争の歴史に焦点をあてます。20世紀は「戦争の世紀」とも呼ばれ、また「アメリカの世紀」と呼ばれることもありますが、本講義は主に、この二つの歴史的現象の重なり合いの変遷を(駆け足ながらも)概観し、そこに「人権(human rights)」の概念と実践の歩みを位置づけていきます。現に今、様々な戦争・紛争が実際に起こり、また新たに起こりつつあるときに、わざわざ過去に遡って学んだり考えたりすることは迂遠と思えるかもしれません。しかし、仮に私たちがひとたび戦争・紛争の渦中に放り込まれれば、今日を生き延びることしか考えられなくなります。時間があるうちに、そして「教室」という、暴力からの自由を保障された空間があるうちに、あえて長い時間軸のなかで戦争・紛争の問題――私たちひとりひとりが人間らしく今を生きる権利(人権/human rights)と切り離すことのできない問題――を考える訓練を積み、現代の諸課題を歴史に照らして考える自分なりの知的枠組みを作っていってほしいと考えています。
達成目標/Course objectives
「戦争の世紀」であり「アメリカの世紀」でもあったとされる20世紀を、主に戦争の暴力の犠牲になった人びとの姿を通じて振り返る。そのことを通じて、現在の私たちが、戦争・紛争と人権をめぐるどのような条件のもとで生きているのかを理解する。
履修条件(事前に履修しておくことが望ましい科目など)/Prerequisite
「ヒューマン・ライツの現場A・B」を受講していることが望ましいですが、真摯に課題と取り組む姿勢があればこれまでの履修状況は問いません。
授業計画/Lecture plan
1
授業計画/Class オリエンテーション 【この回のみ、オンライン授業オンデマンド型】
事前学習/Preparation 課題図書を読み始める(下欄「教科書」の項参照)
事後学習/Reviewing 引き続き課題図書を読む。
2
授業計画/Class 第一次世界大戦における総力戦体制の成立について学ぶ。
事前学習/Preparation 第一次世界大戦について知っていることを整理しておく。
事後学習/Reviewing 映像資料の感想を提出する。
配布資料(山室信一『憲法九条の思想水脈』より抜粋)を読み、第一次世界大戦を受けた国際的な戦争違法化の流れを把握する。
3
授業計画/Class 第二次世界大戦と東京裁判
事前学習/Preparation 配布資料(日暮吉延『東京裁判』より抜粋)を読み、いわゆる「東京裁判」に関して、日暮がそれぞれ「文明の裁き」論・「勝者の裁き論」と呼ぶ相対する二つの評価について把握する。
事後学習/Reviewing 講義内容と照らし合わせながら配布資料を再読。
4
授業計画/Class ベトナム戦争と枯葉剤1 
事前学習/Preparation ベトナム戦争について知っていることを整理しておく。
事後学習/Reviewing 映像資料の感想を提出する。
5
授業計画/Class ベトナム戦争と枯葉剤2
事前学習/Preparation 配布資料(元百合子「ベトナム戦争における米国の戦争犯罪――今も続く枯葉剤散布の被害と不問にされた国家責任」)を読む。
事後学習/Reviewing 講義内容を踏まえて、ベトナム戦争における枯葉剤被害者救済の状況について理解を深める一方、私(たち)が今ベトナム戦争について学ぶ意義について、自分なりの考えをまとめる。
6
授業計画/Class 植民地側の視点でWWI~冷戦期までを辿り直す 
事前学習/Preparation 中間レポートの執筆準備をする。
事後学習/Reviewing 映像資料の感想を提出する。
中間レポートを作成する。
7
授業計画/Class 冷戦の終結と民族紛争の多発
事前学習/Preparation 中間レポートを提出する。
事後学習/Reviewing これまでの講義のメモを参考に、20世紀に戦われた「総力戦」(二つの世界大戦)「代理戦争」(冷戦期)「民族紛争」(冷戦後)に関して、それらの歴史的つながりと特徴の対比を理解する。
8
授業計画/Class 中間レポート講評
事前学習/Preparation 配布資料(上野千鶴子『ナショナリズムとジェンダー』より抜粋)を読み始める。
事後学習/Reviewing 配布資料を引き続き読む。
9
授業計画/Class 20世紀末における「人権」-普遍の真理か、介入の口実か
事前学習/Preparation 配布資料(Michael Ignatieff "Human Rights")を読んでくる。
事後学習/Reviewing 配布の英語文献を読み直す。
10
授業計画/Class 民族浄化と戦時性暴力
事前学習/Preparation 1990年代に旧ユーゴスラヴィアで起きた民族紛争について調べておく。
事後学習/Reviewing 映像資料の感想を提出する。
11
授業計画/Class 「歴史の再審」と「従軍慰安婦」問題
事前学習/Preparation 配布資料(上野、前掲)を読み終えてくる。
事後学習/Reviewing 講義メモをもとに、課題文献に対する自分の考えを整理する。
12
授業計画/Class アメリカと「対テロ」戦争
事前学習/Preparation 配布資料(ダウワー『アメリカ 暴力の世紀』より抜粋予定)を読んでくる。
事後学習/Reviewing 映像資料の感想を提出する。
13
授業計画/Class グループプレゼンテーション1
事前学習/Preparation 発表担当者は準備をする。
事後学習/Reviewing 感想を提出する。
14
授業計画/Class グループプレゼンテーション2
事前学習/Preparation 発表担当者は準備をする。
事後学習/Reviewing 感想を提出する。
15
授業計画/Class 総括・講評
事前学習/Preparation これまでの講義や文献・映像資料、クラス内の議論から学んだことをまとめる。
事後学習/Reviewing 期末レポートを作成する。
授業方法/Method of instruction
区分/Type of Class 対面授業 / Classes in-person
実施形態/Class Method 通常型 / regular
補足事項/Supplementary notes本講義は対面授業(通常型)で実施します。

暗記すべき知識を与えたり、問題に対する解法を教えたりする授業ではありません。課題は比較的多めといえると思います。数回の感想(映像資料に関して、提出したい回を5回選ぶ方式。講義3日後の日曜日までに提出)に加えて、中間・期末レポートの提出を課し、また後半では「戦争・紛争と人権」というテーマに関連して、受講者が興味をもったトピックについてリサーチして発表する機会(希望に応じて個人/グループで実施)も設けます。予習用の文献資料は適宜配布しますが、それとは別に、レポート作成の際に言及が求められる副読本(「教科書」欄参照)も指定します。主体的に考え、参加する意志のある方の受講をお待ちしています。
活用される授業方法/Teaching methods used
成績評価方法/Evaluation
1 平常点 In-class Points 40% 発言・レスポンスペーパー・課題への取り組みを通じたクラスへの貢献
2 レポート Report 60% 講師からのプロンプト(レポートの方向性について簡単な示唆を与えるためのオープンエンドの質問)に答えるかたちで、講義内容・文献資料をふまえたレポート(中間レポート、期末レポートの計2本、配点は30パーセントずつ)を作成・提出
教科書/Textbooks
 著者名
Author
タイトル
Title
出版社
Publisher
出版年
Published year
コメント
Comments
1 赤坂真理 東京プリズン 河出文庫 2014 中間レポートなどの課題に取り組む際に必要となりますので、できるだけはやく準備して読み進めてください。なお、これはいわゆる「東京裁判」に関連した小説ですが、小説ではなくてもっと実証的な論考を読みたいという人は、オプションとしてかわりに日暮吉延『東京裁判』(2008年、講談社現代新書)を手に入れて読んでもかまいません。
メッセージ/Message
もしUniversal Declaration of Human Rights(人権に関する世界宣言)にまだ目を通したことがなければ、以下のウェブサイト等で確認しておいてください。
英文http://www.un.org/en/documents/udhr/index.shtml#a30
日本語訳http://www.ohchr.org/EN/UDHR/Pages/Language.aspx?LangID=jpn
その他/Others
履修者数や習熟度、また世界情勢などに応じて、課題内容や進め方を見直す場合があります。
キーワード/Keywords
人権     戦争     ヒューマン・ライツ     歴史     戦争の世紀     二十世紀     国際政治     国際法     ドキュメンタリー