講義内容詳細:メディア・コミュニケーション論

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年度/Academic Year 2022
授業科目名/Course Title (Japanese) メディア・コミュニケーション論
英文科目名/Course Title (English) Media communication
学期/Semester 前期 単位/Credits 2
教員名/Instructor (Japanese) 本田 英郎
英文氏名/Instructor (English) HONDA Hideo

講義概要/Course description
「危機は、生活が危機にある人びとにとっては日常である」。京都大学の藤原辰史先生の言葉です(2020年)。

組織や家庭で経済的・倫理的に不条理な立場に置かれている人、住まう家のない人、危機の最前線で治療に従事する人、テロや内戦に怯える人、戦争によって家族を失った子供たち、テントで暮らす難民、飢餓に苦しむ人、マラリアに感染し死を待つほかない人……。コロナ禍のなか、自分自身の危機を感じるときだからこそ、自分以外の存在に視線を向けさせ、正確な言葉を発するのも、メディア・報道の責任です。それによって私たちの世界観も変化するのです。

「世界がそんなにも拡がりをもっていることをつねに忘れないなんて、「自然体」ではない、と言う人もいるでしょう」(スーザン・ソンタグ)。しかし、ソンタグがすぐさま言い添えるように、私たちには、「これ」がいまこの場所で起こっているとき、「あれ」もまた別の場所で起こっているのだ、という認識が必要なのです。

上記の思考をもとにこの世界の「いま」について、講義を通じて考えてゆきます。メディアの見巧者となり、コミュニケーションを多方向へときらめかせながら……。

第一に、19世紀半ばから21世紀にかけて大衆に普及していったマスメディアやコミュニケーション手段(新聞、雑誌、書物、広告、ラジオ、テレビ、電話、インターネット)を俯瞰し、歴史的にどのような役割を果たしてきたのか、そして現在どのような役割を果たしているのか、探究する。

第二に、あらゆるメディアにおいては、情報が選択、排除、誘導、誇張、操作、偽装、捏造、自粛、過剰忖度、単純化……されてきた。現代においてもそれは変わらない。具体的事例を扱いながら、メディアとの距離の取り方、情報の真偽の見極め方などについて考察する。

第三に、自己と他者(他人、他民族、他国)とのあいだに生じる対話やコミュニケーションの不確かさ(伝わらなさ、ずれ、切断)について考える。“不一致や無理解のコミュニケーション”という逆説的可能性を軸に、コミュニケーションの困難と希望について考察する。
そのうえで、異文化と多文化についての思考を深める。肌の色や性や宗教などの「差異」が「差別」に変わることを、20世紀半ばから後半にかけての世界は解消する方向で変化させてきたものの、しかし現代においてもなお、ひとりよがりの独断(モノローグ)ではない「異なる」もの同士の対話(ダイアローグ)を実践することは容易ではない。不一致だからこそ話しあい、差異がありながらも共存する可能性に叡智を注ぎ込むことが求められている。そのような対話・コミュニケーションの理念について検討する。
達成目標/Course objectives
メディアについての、また、メディアを介した情報やコミュニケーションについての基本的な視座・リテラシーを獲得することを目標とする。

さらに、メディアの「量」への志向(大衆受けするもの、売れるもの、わかりやすいものを、できるだけ数多く売る、アクセス数や「いいね」を増やす)と、複雑な現実を明晰に捉え・描写し・伝えるという真摯な「質」への感性(必ずしも大衆受けするわかりやすいものになるとは限らない)とのあいだの相克を、私たちの社会はどのように埋めるのかについて探究する視線を獲得する。「商業に対抗する、あるいは商業を意に介さない思想と実践的な行動のための場所」(スーザン・ソンタグ)はいかに可能なのか、グローバル資本主義の時代における倫理についても思考する力を身につける。
授業計画/Lecture plan
1
授業計画/Class プロローグ メディアとコミュニケーションの紋切り型に抗うための思考と感性(スーザン・ソンタグ、他)
*第1週はオンライン授業(オンデマンド型)での実施
2
授業計画/Class もっともらしい「問い」と「答え」の対から逃れるために――メディアの振りまく「紋切り的通念(タテマエ)」に抗うこと(蓮實重彦、等)
3
授業計画/Class メディアは数える、数値化する
4
授業計画/Class メディアと「言葉」の紋切り型を問う――個性、模倣、独創性
5
授業計画/Class メディアは「誘導」する
6
授業計画/Class 情報とメディアについての思考と感性――私たちはグローバルな世界を生きているか(ジョン・ネズビッツとマーシャル・マクルーハン)
7
授業計画/Class メディアは「自粛」する――映画『ヒアアフター』をてがかりに
8
授業計画/Class メディアは「自粛」する(2)――映画『アンブロークン』をてがかりに
9
授業計画/Class メディアは「露出」する――「少女たちの戦争」から
10
授業計画/Class メディアと現実――ふたりのキャメラマン
11
授業計画/Class メディアと「表象」――映画『シンドラーのリスト』をてがかりに
12
授業計画/Class 不確かなコミュニケーションの可能性――宮崎駿&吾朗『コクリコ坂から』
13
授業計画/Class 不確かなコミュニケーションの可能性(2)――宮崎駿&吾朗『コクリコ坂から』
14
授業計画/Class 不一致、無理解、非意味のコミュニケーションが創造を生み出す(ロラン・バルト、ウィリアム・フォーサイス)
15
授業計画/Class エピローグ メディアの見巧者へ、多方向へきらめくコミュニケーションへ
 
事前学習/Preparation その都度、指南する。
事後学習/Reviewing その都度、指南する。
授業方法/Method of instruction
区分/Type of Class 対面授業 / Classes in-person
実施形態/Class Method 通常型 / regular
補足事項/Supplementary notes教室での対面式の講義です。

活用される授業方法/Teaching methods used
成績評価方法/Evaluation
1 レポート Report 100% 試験は実施しない。出席はとらない。日常の講義に参加し、思考を真摯に深めたうえで、期末にレポートを執筆し、それによって評価する。
教科書/Textbooks
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1 その都度、配布する。
参考書/Reference books
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1 その都度、指南する。
メッセージ/Message
たとえコロナ禍というけっして幸福ではない事態とはいえ、未知の環境や情報に遭遇したとき、わたくしたち自身に問われるのは、変化や未知自体への好奇心と、それに対する確かな眼差し、やわらかい思考と感性ではないでしょうか。いたずらに悲観的になることなく、みずみずしい時間となるよう、ともに思考をめぐらせ、逡巡し、ゆれ、ぶれましょう。