講義内容詳細:複素解析Ⅰ

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年度/Academic Year 2022
授業科目名/Course Title (Japanese) 複素解析Ⅰ
英文科目名/Course Title (English) Complex Analysis I
学期/Semester 後期 単位/Credits 2
教員名/Instructor (Japanese) 神谷 亮
英文氏名/Instructor (English) KAMIYA Ryo

講義概要/Course description
複素関数とは、複素数を変数とし、複素数値を返す関数のことである。複素関数に対しても極限を用いて微分可能性が定義されるが、特に各点で微分可能である複素関数を正則関数と呼ぶ。正則性は「各点で微分可能である」というだけの性質であるが、実数の場合と異なり実はとても強い条件であり、例えば短い曲線の上での関数の値だけから領域全体での関数の値が一意に定まってしまう。それにより、例えば実数の範囲で学んできた指数関数や三角関数などはそれぞれただ一通りの正則関数に拡張される(すなわち<$\sin (3+2i)$>などの値が自然に定義される)こともわかる。
関数の定義域を複素数の世界にまで拡げることにより、実数の世界でだけ考えていたときよりも関数の特性が考えやすくなることも多い。例えば、べき級数の収束半径は、べき級数により定まる複素関数の特異点とべき級数の中心との距離に一致する。また、例えば煩雑であったり技巧的であったりした実関数の定積分の積分も、複素領域における特異点の情報を利用することにより、驚くほど簡単に計算できたりする。
この講義では、上に述べた性質を含む、複素関数の基本的かつ重要な性質を学んでいく。
同時期に開講される「複素解析Ⅰ演習」とともに履修することを強く勧める。
達成目標/Course objectives
(1)有理関数、三角関数、指数関数をはじめ、基本的な複素関数の値や極限を計算できるようになる。
(2)正則性、複素線積分、孤立特異点、留数など、基本的な用語の定義を説明できるようになる。
(3)講義で扱う、正則性と関係する重要な性質(コーシー・リーマンの関係式、コーシーの積分定理、コーシーの積分公式、留数定理など)を理解し、具体的な設定のもとで使えるようになる。
(4)留数定理の利用、および三角不等式等による積分の評価により、実関数の積分を行えるようになる。
履修条件(事前に履修しておくことが望ましい科目など)/Prerequisite
(1)同時期に開講される「複素解析Ⅰ演習」とともに履修することを強く勧める。
(2)解析IA , IB, 解析学Ⅱの内容を仮定する。特に数列の極限や関数の極限と連続性、1変数の微分積分、偏微分、1変数のテイラー展開、べき級数の扱いについては、理解して使いこなせることが望まれる。
(3)解析学Ⅲで学ぶ線積分の扱いに慣れていることが望ましい。
授業計画/Lecture plan
1
授業計画/Class 第一週のみ「オンライン授業(オンデマンド型)での実施」である。
複素関数論を学ぶための基本的な概念を理解することが目標。
複素数と複素平面、極形式、三角不等式を解説する。
2
授業計画/Class 複素微分可能性の定義と性質を理解することが目標。
極限、複素関数の連続性と複素微分可能性、正則関数の定義を解説する。
3
授業計画/Class 正則性の定義を理解し、具体的な関数の正則性を調べられるようになることが目標。
正則性の定義の後、コーシー・リーマンの関係式の解説をし、その後で正則関数の例として、多項式関数、有理関数、指数関数、三角関数について述べる。
4
授業計画/Class 複素線積分の定義を理解することが目標。
正則関数の例の続きとして、対数関数、一般のべき関数について解説する。
また、曲線の定義と曲線に沿った複素線積分の定義を解説する。
5
授業計画/Class 実際に複素線積分が計算できて、自分で性質を調べられるようになることが目標。
複素線積分の基本的な性質を解説し、いくつかの基本的な関数および曲線に対して実際に複素線積分を計算することで、コーシーの積分定理への導入を行う.
6
授業計画/Class コーシーの積分定理がなぜ成り立つのかを概ね理解することが目標。
導関数が連続であり、さらに曲線が比較的扱いやすい場合に限定してコーシーの積分定理を証明する。
より一般的な場合の証明について、簡単に補足する。
また積分路の変更についても解説する。
7
授業計画/Class コーシーの積分定理について、主張を理解し、使えるようになることが目標。
前半ではコーシーの積分公式とその積分計算への応用について解説する。
後半ではべき級数の基本事項について解説する。
8
授業計画/Class べき級数に関する諸概念、およびべき級数で定義された関数が正則であることを理解することが目標。
複素数列、複素級数の収束と発散について述べ、べき級数の収束半径、べき級数の四則演算と微分・積分に関して解説する。
9
授業計画/Class 正則関数が各点を中心としてべき級数展開できることを理解することが目標。
正則関数のべき級数展開、一致の定理について解説する。また、一致の定理を利用した定義域の拡張(解析接続の原理)に関して解説する。
10
授業計画/Class 孤立特異点のまわりの関数の挙動をローラン展開を用いて扱えるようになることが目標。
孤立特異点におけるローラン展開、極と真性特異点について解説する。実際にどのようにローラン展開を計算するかについて、いくつか具体例を用いて解説する。
11
授業計画/Class 孤立特異点の情報がどのように複素線積分に影響するのかを理解することが目標。
極における留数の定義を与える。また、留数定理について解説する。
12
授業計画/Class 複素解析を利用して、有理関数の講義積分などの比較的簡単な実積分を計算できるようになることが目標。
留数定理をもとに、三角不等式などによる積分値の評価も利用して実積分を計算する方法を解説する。
13
授業計画/Class 複素解析を利用した実積分の計算法をより理解することが目標。
前回学んだことに加え、積分路の取り方を工夫するなどにより、より一般の実積分を計算する方法について解説する。
14
授業計画/Class 正則性により関数値がどのような制限を受けるか、理解することが目標。
コーシーの積分公式の応用例として、最大値の原理、リュービルの定理を学ぶ。リュービルの定理を用いて代数学の基本定理を証明する。
15
授業計画/Class 講義の内容全体を整理する。また、試験の概要について、説明する。
 
事前学習/Preparation 授業計画に述べた用語や定理がどのようなものか、教科書や資料を読んで、概要をつかもうとする。
すでに主張を学んだが証明を学んでいない定理がなぜ成り立つか考えてみたり、解き方は学んでいないが主張は理解できる問題の解き方を考えてみるなどしたうえで受講すると、問題意識を持ったうえで講義に参加できるかと思う。
事後学習/Reviewing 講義で学んだ内容についての理解を確かなものとするために事後学習に精力的に取り組んでほしい。

講義で学んだ定義と定理について、ノートにまとめ、具体例(定義を満たす例、満たさない例、定理の適用できる例、定理を適用できない例など)を考えて、本当に具体例になっているかどうかを考えるとよい。さらに講義で提示された練習問題について取り組んでほしい。
用語の定義や定理の主張をよく理解できた後は、定理の成り立つ理由について、講義で学んだ・もしくは提示された資料に述べられた証明を読みこむのも価値がある。理解したと思った内容を、ノートに(できるだけ何も見ずに)再構成すると、より確かな理解が得られるだろう。

複素解析Ⅰ演習の問題にしっかり取り組むことも重要である。演習の時間内にできなかった問題も、試行錯誤しならが解こうと試みてほしい。

また、考えたことや分からないことについて友人や他の受講者と話し合ったり、書物などで調べることも、理解を深めるということを超えて大切なことである。なかなか解決しないことについては、神谷に連絡せよ。なにかしらヒントを提示できることが多いかと思う。
授業方法/Method of instruction
区分/Type of Class 対面授業 / Classes in-person
実施形態/Class Method 通常型 / regular
補足事項/Supplementary notes板書・プロジェクターの利用による講義形式。講義室での対面授業の予定。
活用される授業方法/Teaching methods used
成績評価方法/Evaluation
1 試験 Exam 70% 期末試験を行う。
2 レポート Report 30% 中間レポートを課す。
教科書/Textbooks
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1 谷口健二,時弘哲治 複素解析 (理工系の数理) 裳華房 2013 4785315598 \2,200 この教科書の5章までの内容を、適宜順番を入れ替えながら概ね解説する。
また、CoursePowerで適宜講義資料を配布する。

この教科書の後半を読めば、この講義の内容の先に広がる理論のいくつかについて、その概要をつかめるだろう。
参考書/Reference books
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1 矢野健太郎, 石原繁 基礎解析学コース 複素解析 裳華房 1995 4785310899 \1,540 コンパクトに基礎的な内容がまとまっている。分かりやすいので、概ねの理解もできていないと感じる場合の参照先として役立つかと思う。
2 高橋礼司 基礎数学8 [新版]複素解析 東京大学出版会 1990 4130621068 \2,860 楕円関数や、リーマンのゼータ関数の解析接続など、より進んだ内容が述べられている。厳密に論理展開しているが、比較的難しい。
講義内容では物足りない学生は読んでみると良い。
キーワード/Keywords
正則関数     コーシー・リーマンの方程式     べき級数     留数定理