1
|
授業計画/Class |
オリエンテーション シラバスをもとに、クラスの目的、評価方法、授業計画など、この科目の全体について説明をする。その際に、参考文献などについても説明する。また、この科目の全体を貫く問題提起をし、クラスの方向づけを行なう。さらに、聖書について簡単に概要を説明する。
|
事前学習/Preparation |
キリスト教概論Ⅰで学んだことをある程度振り返り、概論Ⅰの履修を通して自分のキリスト教に対する考えや理解がどのように変わったかを考えてみる。 |
事後学習/Reviewing |
配布されたシラバスをもとに、講義の全体像を把握する。 |
|
2
|
授業計画/Class |
(第1部:ポピュラーカルチャーとキリスト教) ●新約聖書の時代:『ユダ福音書』とグノーシス主義【イスカリオテのユダの実像?】 近年発見・公開された『ユダ福音書』をめぐって、様々な評価がなされている。はたしてユダはイエスを銀貨30枚で神殿当局に売り渡した裏切り者か、それとも弟子の中で唯一イエスを理解し、その信頼に応えた真の弟子か?『ユダ福音書』の記述から何を読み取るべきか、グノーシス主義の背景を踏まえて考察する。 |
事前学習/Preparation |
*課題図書 各福音書および使徒言行録におけるイスカリオテのユダに関する記述(マルコ3:13-19//マタイ10:1-4;ルカ6:12-16、ヨハネ6:60-71、マルコ14:1-50//マタイ26:1-56; ルカ22:1-53; ヨハネ12:1-8; 13:1-34; 18:1-14、マタイ27:1-10//使徒1:12-26)。『地の塩、世の光』「4. イエス・キリスト」、「6.福音書記者ヨハネ」。 *辞典項目『岩波キリスト教辞典』「ユダ(イスカリオテの)」「グノーシス」、Wikipedia(英語版が充実):「イスカリオテのユダ」「ユダの福音書」。 *ナショナルジオグラフィック ニュース:「ユダの福音書」の持つ意味 |
事後学習/Reviewing |
コースパワーにアップロードする資料、および講義スライドのPDFに目を通し、授業内容を振り返る。 |
|
3
|
授業計画/Class |
●初代教会の時代(1):『ダ・ヴィンチ・コード』とキリスト論 ダン・ブラウンによる小説『ダ・ヴィンチ・コード』の出版および映画化によって、歴史のイエスとマグダラのマリアの関係に関心が集まった。また、初期キリスト教の成立過程についても、イエスを神とする信仰が皇帝の圧力によって成立したとするブラウンの主張の歴史的真偽をめぐって論争が繰り広げられた。迫害される少数者であった初期キリスト教が、コンスタンティヌス帝による公認を経てローマ帝国の唯一の公認宗教へと変貌する過程で、キリスト教にどのような変更が生じたのか、小説で争点とされたポイントを辿りつつ確認する。
|
事前学習/Preparation |
*課題図書 マグダラのマリアに関連する福音書箇所(マルコ15:33-16:8//マタイ27:45-28:20;ルカ23:44-24:12; ヨハネ19:17-20:18、ルカ8:1-3)。 *辞典項目『岩波キリスト教辞典』「マリア(マグダラの)」。 *事前に映画『ダ・ヴィンチ・コード』を観るか、小説を読んでおくと、話がわかりやすいと思います。 |
事後学習/Reviewing |
コースパワーにアップロードする資料、および講義スライドのPDFに目を通し、授業内容を振り返る。 |
|
4
|
授業計画/Class |
●初代教会の時代(2):『アレクサンドリア』と史料問題 映画『アレクサンドリア』は、紀元5世紀初頭にエジプトのアレクサンドリアで起こった女性哲学者・数学者ヒュパティアの虐殺事件を描く。映画では当時の総主教キュリロスに責任を負わせ、異教徒を迫害するキリスト教の残虐さを描いているが、はたしてこの理解は正確だろうか? キリスト教がローマ帝国の唯一の公認宗教となり精力を拡大する中、長くアレクサンドリアを拠点としてきたユダヤ教徒との対立や、学問の中心として繁栄してきたアレクサンドリアの異教の伝統への対応など、時代背景を睨みつつ考える。 |
事前学習/Preparation |
*課題図書 使徒18:24-28。 *辞典項目『岩波キリスト教辞典』「アレクサンドリア」「新プラトン主義」。Wikipedia(英語版が充実):「アレクサンドリア(映画) = Agora (film)」「ヒュパティア」「ネオプラトニズム」。 *事前に映画『アレクサンドリア』を見ておくと、話がわかりやすいと思います。 |
事後学習/Reviewing |
コースパワーにアップロードする資料、および講義スライドのPDFに目を通し、授業内容を振り返る。 |
|
5
|
授業計画/Class |
(第2部:現代社会において聖書を批判的に読む) ●出エジプトとヨベルの年:解放の神・契約の神 聖書全体を貫く神のイメージは、弱者を憐れみ解放する神である。古代イスラエル宗教の原体験は、エジプトでの奴隷生活からの解放の出来事(出エジプト: Exodus)であった。この経験が神理解を決定的に性格づけ、神との契約が神の民イスラエルを根本的に性格づける。さらに神による救済のイメージは、この出エジプトを原型として拡大していく。この奴隷解放のヴィジョンは、現代社会に何を問いかけるだろうか?
|
事前学習/Preparation |
*課題図書 出エジプトの出来事に関する箇所(出エジプト1:1-4:17; 6:1-13; 11:1-10; 12:29-42)、神との契約に関する箇所 (出エジプト19:1-20:-21; 24:1-11)、契約内容・法に関する箇所 (出エジプト22:20-26; 23:4-9; レビ記19章; 申命記24:5-22)、ヨベルの年に関する箇所 (レビ記25章)、およびヨセフ物語(創世記37; 39-41; 46-47章)。『地の塩、世の光』「2. モーセ」。*辞典項目『聖書神学事典』「贖い」「十戒」「法」「ヨベルの年」、『キリスト教平和学事典』「解放の神学」「契約」「正義」。 *副読本 『シャローム・ジャスティス』第4章。
|
事後学習/Reviewing |
コースパワーにアップロードする資料、および講義スライドのPDFに目を通し、授業内容を振り返る。 |
|
6
|
授業計画/Class |
●預言者の問題提起:平和のヴィジョン キリスト教の歴史(特に西洋のキリスト教)は、戦争を起こし侵略し抑圧した支配者の歴史として浮かび上がる。それは「平和を実現する人々は幸い」と語り、敵を愛することを教えまた実践したイエス・キリストのヴィジョンとは、ほど遠いものである。イエスの平和のヴィジョンを旧約聖書の預言者の伝統に遡り、そこから私たちの生きる現代社会に対する問題提起を読み取りたい。
|
事前学習/Preparation |
*課題図書 平和に関する箇所 (イザヤ1:1-2:22; 8:23b-9:6; 11:1-12:6; 52:1-12; ゼカリヤ9:1-10; マルコ11:1-11)、戦争と不正義の批判・裁きに関する箇所(サムエル記上8:1-22; イザヤ13:1-14:23; 31:1-9; 58:1-14; アモス5:1-27; 8:1-14; 黙示録18:1-24)。『地の塩、世の光』「3. イザヤ」「6.黙示録のヨハネ」。 *辞典項目『聖書神学事典』「怒り」「主の日」、『キリスト教平和学事典』「イエスの平和思想」「軍備」「十字軍」「戦争とキリスト教」「平和・平和主義」。 *副読本 『シャローム・ジャスティス』第7章、第8章。 |
事後学習/Reviewing |
コースパワーにアップロードする資料、および講義スライドのPDFに目を通し、授業内容を振り返る。 |
|
7
|
授業計画/Class |
●パウロの異邦人宣教(1):民族主義の克服 イエスの平和のヴィジョンは、パウロを経由して民族主義の克服へと展開される。イエスを信じる群れに後から加わった異邦人(非ユダヤ人)クリスチャンに対して、ユダヤ人との同化を要求する強硬派に抗して、パウロは無割礼の異邦人クリスチャンを擁護し、教会におけるユダヤ人と異邦人の和解・一致に命を賭した。キリスト教会はこのパウロの遺産を継承するはずだが、現実には多くの場合、民族対立に巻き込まれている。あらためてイエスからパウロへと辿り直しつつ、果たして宗教改革の信仰義認論がパウロを正確に提示しているかどうかも、併せて検討したい。
|
事前学習/Preparation |
*課題図書 民族主義の克服に関する箇所(イザヤ19:1-25; 56:1-8; ヨナ3:1-4:11; ルカ9:51-55; 10:25-37; 17:11-19; ローマ1:1-4:25; 9:1-36; ガラテヤ3:26-29; エフェソ2:11-22)。『地の塩、世の光』「5. パウロ」。 *辞典項目『岩波キリスト教辞典』「エスノセントリズム」「ナショナリズム」、『キリスト教平和学事典』「エスニシティ」「ナショナリズム」。 |
事後学習/Reviewing |
コースパワーにアップロードする資料、および講義スライドのPDFに目を通し、授業内容を振り返る。 |
|
8
|
授業計画/Class |
●パウロの異邦人宣教(2):格差との闘い パウロによるイエスの平和のヴィジョンの展開は、民族主義の克服に限定されるものではない。教会内に無批判に持ち込まれていた身分や貧富の格差をパウロは徹底的に批判し、神のもとにある平等を実践するよう説いた。この精神は聖書全体を貫いている。社会が身分的・経済的格差を拡大させるのに対して、教会は格差を克服させる福音を説き、それを目に見える形で実践するものである(はずだ)。
|
事前学習/Preparation |
*課題図書 マタイ6:19-24;1コリント1:26-31; 11:17-34; フィレモン1-25 (cf. 1コリント7:17-24); ヤコブ2:1-17; 4:13-6; 1ヨハネ3:16-18。『地の塩、世の光』「16.マーティン・ルーサー・キング」。 *辞典項目『岩波キリスト教辞典』「キリスト教社会主義」、『キリスト教平和学事典』「社会主義」「『障害者』との共生」「人権とキリスト教」「奴隷制」「被差別部落問題」「貧困」。 |
事後学習/Reviewing |
コースパワーにアップロードする資料、および講義スライドのPDFに目を通し、授業内容を振り返る。 |
|
9
|
授業計画/Class |
●信仰義認論の功罪:初期ユダヤ教の法思想 近年日本でもにわかに注目を浴びるようになった「パウロ研究の新しい視点」(NPP)は、紀元1世紀のユダヤ教理解を劇的に改善したE.P. サンダースの研究が発端となっている。サンダースが初期ユダヤ教の「宗教の型」として提示した「契約遵法主義」の検討を通して、同時代のユダヤ教の法思想を辿りつつ、パウロとユダヤ教に共通する神理解を探りたい。さらに「キリストの真実/信実/信仰」をめぐる問題も、併せて検討したい。
|
事前学習/Preparation |
*課題図書 ガラテヤ1:1-4:20; ローマ1:1-3:31; フィリピ2:1-18; 3:1-4:1。辞典項目『聖書学用語辞典』「初期ユダヤ教」「パウロ研究」「ラビ文献」「ラビ・ユダヤ教」。 |
事後学習/Reviewing |
コースパワーにアップロードする資料、および講義スライドのPDFに目を通し、授業内容を振り返る。 |
|
10
|
授業計画/Class |
●旧約聖書の法思想:神の聖性・憐れみ深さを生きる 旧約聖書に記されている出エジプトとシナイ山での契約及び律法授与の物語は、イスラエルをエジプトの奴隷の家から導き出した神の憐れみ深い解放の業を物語る。この憐れみ深さを自らのものとして引き受けて、共同体/社会を形成することを神の前に誓ったのがシナイ契約であり、その社会の雛形を示したのがモーセ律法である。パウロと1世紀のユダヤ教から、あらためて時代を遡って、旧約聖書の法思想を確認したい。
|
事前学習/Preparation |
*課題図書 出エジプト記19:1-24:18; レビ記19:1-37; 申命記16:18-20; 17:2-13; 19:1-21; 21:1-22:29; 23:16-25:16、列王記上3:1-28。辞典項目 『聖書神学事典』「十戒」「法」、『聖書学用語辞典』「契約遵法主義」「契約の書」「決疑法」「十戒」「神聖法集」「人道法」「断言法」「法典」。 *副読本 『シャローム・ジャスティス』第6章。 |
事後学習/Reviewing |
コースパワーにアップロードする資料、および講義スライドのPDFに目を通し、授業内容を振り返る。 |
|
11
|
授業計画/Class |
●新約聖書の法思想:ルカ福音書の譬え物語から ルカ福音書に記されているイエスの譬え物語から、裁判ないし法に関連したものを二つ取り上げる。一つは「やもめと裁判官」の譬え、もう一つは「ファリサイ派の人と徴税人」の譬え。神による正義の裁きは、抑圧された者にとって救いとなる。では、神による正義の裁きは、何を基準とするのだろうか? 神による正しい裁きを救いとする考えは、地上の悪しき王に対する批判の根拠となるとともに、正しい裁き主としてのメシアの到来を待ち望む信仰へと収斂されて行った。このメシア思想を、新約聖書のイエス像の背景として探る。
|
事前学習/Preparation |
ルカ18:1-8, 9-14、詩編35編; 72編; イザヤ32:1-8、エゼキエル34章、マタイ12:15-21; 18:10-14; 25:31-46。
|
事後学習/Reviewing |
コースパワーにアップロードする資料、および講義スライドのPDFに目を通し、授業内容を振り返る。 |
|
12
|
授業計画/Class |
●史的イエスをめぐる法的状況(1):安息日論争の真の争点 新約聖書には、イエスと宗教指導者(ファリサイ派/律法の専門家)の論争が複数記されている。特に、労働が禁じられている安息日に癒しを行ったイエスに対する激しい非難が際立っているが、果たしてそれは律法解釈をめぐる論争だったのだろうか? それとも、自らを神と等しくしたイエスの存在に対する敵意からくる、著しく偏った攻撃だったのだろうか? いくつかの箇所を検討しつつ、新約聖書のキリスト論を探る。
|
事前学習/Preparation |
*課題図書 マルコ2:1-3:6, 20-30; 7:1-23; ヨハネ5:1-47; 9:1-41。 *副読本 『シャローム・ジャスティス』第9章。 |
事後学習/Reviewing |
コースパワーにアップロードする資料、および講義スライドのPDFに目を通し、授業内容を振り返る。 |
|
13
|
授業計画/Class |
●史的イエスをめぐる法的状況(2):イエスの裁判と十字架 キリスト教は、イエスの十字架を救済の出来事として理解する。しかし歴史的には、イエスの十字架は当時パレスチナを統治していたローマ帝国による処刑であった。ローマに反逆した者を見せしめとして社会的に抹殺することで、ローマは反逆を企む者たちを萎縮させたのである。そのローマ側の事情に加えて、ユダヤ側にも、イエスの処刑を望む事情があった。何れにせよ、イエスの十字架刑は不当な裁きによる不当な処刑であった。神によるイエスの復活は、この権力者による不当な処刑を覆す、神によるイエスの承認・復権である。贖罪について考えるに先立って、まずは十字架刑を歴史的に正確に理解する必要がある。
|
事前学習/Preparation |
*課題図書 マルコ14:26-16:8//マタイ26:31-28:10//ルカ22:39-24:12//ヨハネ18:1-20:10; 使徒2:14-42; 3:1-26。 |
事後学習/Reviewing |
コースパワーにアップロードする資料、および講義スライドのPDFに目を通し、授業内容を振り返る。 |
|
14
|
授業計画/Class |
●贖罪論をめぐる諸問題:法的説明の功罪と修復的正義 前回に引き続き、イエスの十字架刑を扱うが、ここでは十字架を救済の出来事として説明する後の教理的整理をめぐる諸問題に目を向けたい。イエスの十字架がどのように救済の出来事となるかを説明する神学の分野を「贖罪論」と呼ぶ。カンタベリーのアンセルムスによって導入された法的説明の「充足説」は民事訴訟のモデルを当てはめたものだが、宗教改革者ジャン・カルヴァンは、それを刑事訴訟のモデルに先鋭化して「刑罰代償説」として整備した。果たしてその説明は、現代もなお説得力を持つものだろうか? それとも、神を暴力的存在として歪めてしまったとの批判(特にフェミニスト陣営から)が、真理をついているのだろうか? 今日、刑事司法の分野で注目されている「修復的正義/司法」の視点から、贖罪論を改めて検討してみたい。 |
事前学習/Preparation |
シラバスに指定された「課題図書」(聖書箇所、『地の塩・世の光』の指定部分、辞典項目)に目を通し、授業の主題について事前理解を得ておく。 *副読本 『シャローム・ジャスティス』第5章。 |
事後学習/Reviewing |
コースパワーにアップロードする資料、および講義スライドのPDFに目を通し、授業内容を振り返る。 |
|
15
|
授業計画/Class |
●まとめ:信仰の合理性 最終回は、キリスト教信仰の合理性について考えてみたい。日本では、特に1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件(カルト集団による無差別テロ)の影響もあり、「宗教は怖い」という感覚が強い。この感覚は、遡ればキリシタン禁制期の凄惨な迫害と、キリシタン排除のために作られた檀家制度によって醸成されたものでもある。特定の宗教にコミットすることが「狂信的」で「カルト的」という誤解に対して、キリスト教信仰は(そして伝統的な宗教もまた)合理的な営みであることを理解することは、グローバル化する世界において宗教とテロとを短絡的に結びつける誤謬を避けるために、極めて重要だと考える。
|
事前学習/Preparation |
シラバスに指定された「課題図書」(聖書箇所、『地の塩・世の光』の指定部分、辞典項目)に目を通し、授業の主題について事前理解を得ておく。 |
事後学習/Reviewing |
コースパワーにアップロードする資料、および講義スライドのPDFに目を通し、授業内容を振り返る。 |
|