講義内容詳細:考古学特講(2)

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年度/Academic Year 2023
授業科目名/Course Title (Japanese) 考古学特講(2)
英文科目名/Course Title (English) Lecture on Archeology (2)
学期/Semester 後期 単位/Credits 2
教員名/Instructor (Japanese) 今泉 潔
英文氏名/Instructor (English) IMAIZUMI Kiyoshi

講義概要/Course description
今日の日本考古学で議論されている事柄のほとんどは、埋蔵文化財行政の成果によるといっても過言ではありません。したがって埋蔵文化財行政と考古学的な研究活動とは非常に深い関係にあり、お互いに補完しながら現在の関係を構築してきました。しかし両者の目的と価値を置いているところはまったく異なります。その意味を文化財保護法の理念を踏まえて、国民共有の歴史的財産である埋蔵文化財に関する行政的な措置の流れを具体的に学ぶことから明らかにし、あわせて今日的課題についても触れていきます。また日進月歩で進化するデジタル技術についても、埋蔵文化財の保存・活用という観点から、紹介していきます。
達成目標/Course objectives
① 埋蔵文化財行政と考古学の相違点について理解できるようになる。
② 埋蔵文化財行政の今日的課題に対して、考古学的な立場から建設的な意見をもてるようになる。
③ 埋蔵文化財行政に関する基礎的知識を応用して、実務的な作業の流れと内容が理解できるようになる。
④ 埋蔵文化財調査機関等が実施する普及事業(現地説明会・講演会・展示会等)で、一般市民の関心がどこにあるのか体得できるようになる。
学部・研究科のディプロマポリシー(卒業認定・学位授与の方針)に基づき、当該科目を履修することで身につく能力 / Abilities to be acquired by completing the course in accordance with the faculty and graduate school diploma policy (graduation certification and degree conferral)
学部・研究科のディプロマポリシー(卒業認定・学位授与の方針)/ Undergraduate and Graduate Diploma Policy (Graduation Certification and Degree Conferral)
履修条件(事前に履修しておくことが望ましい科目など)/Prerequisite
テーマに関心のある方の受講を歓迎します。
前年度に本講義を履修し、単位を修得した学生の履修は認めません。
授業計画/Lecture plan
1
授業計画/Class オリエンテーション:シラバスに沿った授業の全体計画・内容に関する説明と講師の紹介を行います。【初回のみオンライン(オンデマンド型)で実施します。】
事前学習/Preparation シラバスから授業全体の流れを把握しておく。
事後学習/Reviewing ハンドアウトで復習しておく。
2
授業計画/Class 文化財保護法前史【対面授業】
明治維新直後の混乱期から、先人が文化財を救済するためにどのような保護策をとってきたかを学びます。それらが後の文化財保護法の骨格となっていくわけですが、それぞれの保護策が生まれた時代背景等を踏まえながら、成立する経緯について解説します。
事前学習/Preparation 授業テーマに関する予備知識を参考書等で確認しておく。
事後学習/Reviewing ハンドアウトで復習しておく。
3
授業計画/Class 文化財保護法の成立とその後(法・通知・報告等)【対面授業】
文化財保護法は昭和25年に施行しますが、保護という法の理念を踏まえて、法の内容と法が成立する契機となった事柄などに触れていきます。文化財保護法はその後、取り巻く環境に応じて法改正が行われますが、特に直近の法改正で大きく変わったところを現在の視点から取り上げます。また法の施行細則の役割を果たしているといっても過言ではない「埋蔵文化財発掘調査体制の整備充実に関する調査研究委員会」の主だった報告も取り上げます。
事前学習/Preparation 授業テーマに関する予備知識を参考書及び文化庁HP等で内容を確認しておく。
事後学習/Reviewing ハンドアウトで復習しておく。
4
授業計画/Class 発掘調査費用に関する原因者負担の実際(保護法・覚書・通知・報告・裁判例等)【対面授業】
他国の埋蔵文化財に関する保護法では明文化されることが多い調査費の費用負担が、わが国の保護法では費用負担としては条文に明記されていません。にもかかわらず、現状ではあたかも制度のようにそれが運用されているわけですが、そこにたどりつくまでの取り組みを学びます。また費用負担をめぐる裁判例等を取り上げて、費用負担が抱える問題についても触れていきます。
事前学習/Preparation 授業テーマに関する予備知識を参考書等で確認しておく。
事後学習/Reviewing ハンドアウトで復習しておく。
5
授業計画/Class 補助制度(国庫補助金等)と調査体制【対面授業】
個人にかかわる事業等については発掘調査費用を補助する制度があり、それに該当する事業、その種類、スケジュール等について解説します。また調査体制については、民間調査機関も含めて設立基盤が異なる発掘調査機関が存在することを紹介します。あわせて考古学最大規模の学術団体である、日本考古学協会について触れておきます。
事前学習/Preparation 予備知識を参考書等で確認し、各調査機関のHPにも目を通しておく。
事後学習/Reviewing ハンドアウトで復習しておく。
6
授業計画/Class 埋蔵文化財行政における国の機関(文化庁・奈文研)【対面授業】
文化財に関する国の行政官庁である文化庁と調査研究機関である奈良文化財研究所について、それぞれが埋蔵文化財行政に果たす役割を踏まえて、両機関の埋蔵文化財行政への取り組みに関して具体的な事例から紹介します。
事前学習/Preparation 授業テーマに関する概要を両機関のHP等で確認しておく。
事後学習/Reviewing ハンドアウトで復習しておく。
7
授業計画/Class 埋蔵文化財の取扱いに関する概要―把握と周知―【対面授業】
埋蔵文化財行政の4本の柱といわれる、把握・周知、調整、保存、活用の全体像を踏まえて、その入り口に相当する把握・周知の段階を主なテーマとします。埋蔵文化財が対象とする時代の範囲が、考古学における時代概念とどのように異なるのか、また埋蔵文化財包蔵地と遺跡という呼称の違い等についても学びます。それに続けて調整という実務的な内容をスケジュール感を交えながら解説します。
事前学習/Preparation 授業テーマに関する予備知識を参考書等で確認しておく。
事後学習/Reviewing ハンドアウトで復習しておく。
8
授業計画/Class 工事立会・慎重工事・確認調査【対面授業】
本調査に至るまでの、埋蔵文化財の取り扱いに関する手法がおもなテーマです。特に確認調査の実際について、具体的な事例から問題点・課題等をあぶり出していきます。また「消極的事実の証明」という、やややっかいな哲学的な命題についても触れます。これは考古学の議論の場でも、頭の片隅おいておくべき重要な事項と考えるからです。
事前学習/Preparation 授業テーマに関する予備知識を参考書等で確認しておく。
事後学習/Reviewing ハンドアウトで復習しておく。
9
授業計画/Class 本調査(1)【対面授業】
事業者負担という実際の発掘現場を想定して、調査工程、調査の方法(特に記録の残し方を中心に)、使用する機器・器材などを具体的に紹介します。あわせて近年、発掘現場にも導入が著しい、デジタル機器を使用した発掘調査についても言及します。
事前学習/Preparation 授業テーマに関する予備知識を参考書等で確認しておく。実務経験があればそれとの相違点等を確認しておく。
事後学習/Reviewing ハンドアウトで復習しておく。
10
授業計画/Class 本調査(2)【対面授業】
前回に引き続き発掘調査がテーマですが、それをさらに掘り下げていきます。まず発掘担当者としての要件について説明し、それを踏まえて発掘調査するときの心構えについて学びます。特に本調査にいたる事前調査の重要性、そしてその裏に潜む思い込み・先入観からくる調査の落とし穴などについて、具体的な考古学の発掘調査成果から学んでいきます。
事前学習/Preparation 授業テーマに関する予備知識を参考書等で確認しておく。実務経験があればそれとの相違点等を確認しておく。
事後学習/Reviewing ハンドアウトで復習しておく。
11
授業計画/Class 整理作業【対面授業】
前回までの発掘調査と対比して、そこから浮かび上がる整理作業の特質を明らかにします。そして整理作業の工程の流れを具体的な事例から紹介し、発掘調査同様、近年導入されるようになってきたデジタル技術についても取り上げます。さらに近年切実な問題となっている、出土遺物の資料保管に関して、埋蔵文化財行政と考古学的な立場とで対立する意見がある現状を学びます。
事前学習/Preparation 授業テーマに関する予備知識を参考書等で確認しておく。実務経験があればそれとの相違点等を確認しておく。
事後学習/Reviewing ハンドアウトで復習しておく。
12
授業計画/Class 発掘調査報告書の作り方・読み方【対面授業】
発掘調査報告書の作り方では、公文書としての性格をもつ発掘調査報告書における日本語のあり方について、講師の考えを述べます。後半の読み方については、奈良文化財研究所で公開している「全国遺跡報告総覧」を取り上げ、その内容、システム、成り立ちについて解説し、受講者のその後の利用の助けとします。
事前学習/Preparation 事前に、奈良文化財研究所で公開している「全国遺報告総覧」にアクセスして、何らかのキーワードで検索してみて、その使い勝手を体験しておく。そして1冊の発掘調査報告書を開いてみて、その構成がどのようになっているかみておく。
事後学習/Reviewing 授業内容と、内容を確認した発掘調査報告書とを照らし合わせてみる。
13
授業計画/Class 積算の概要と安全管理【対面授業】
積算とは何か、そしてその歴史を古代まで遡って紹介します。現行の実務的な作業内容をその手順から具体例を交えて解説します。安全管理については、いくら考古学における学術的な発掘調査といっても、もはや聖域ではなく、すべて現行の労働安全管理に関する法的な規制のもとにあることを具体例から学んでいきます。そして受講者自身の日常の行動における安全神話についても、それを見直すきっかけとなる糸口を探ります。
事前学習/Preparation 積算と安全管理をキーワードに、関連法規も含めて予備知識を参考書等で確認しておく。
事後学習/Reviewing ハンドアウトで復習し、安全管理については改めて自身の日常生活から見直してみる。
14
授業計画/Class 埋蔵文化財の遺跡保存と活用【対面授業】
はじめに遺跡保存の理念を提示します。それを実現するために、事業者を相手にして先人が叡智を結集して涙ぐましい努力をしてきたことを、具体的な遺跡の保存例から学びます。ただし常に埋蔵文化財行政側の言い分が通ったわけではなく、それには限界があったことも理解してもらいます。活用では、近年多くの調査機関等でユーチューブなどを利用した様々な取り組みがなされているので、それらをいくつかのパターンから紹介します。
事前学習/Preparation 授業テーマに関する予備知識を参考書や各調査機関等のHPから確認しておく。
事後学習/Reviewing ハンドアウトで復習しておく。
15
授業計画/Class まとめ【対面授業】
それまでの授業で時間の関係で言及が不十分だったところを中心に、再度、説明を加えます。そして最後に埋蔵文化財行政が現在直面している課題をとりあげて、それをまとめにかえることにします。
事前学習/Preparation これまでの授業を配布資料等をもとに振り返り、内容を理解しておくこと。
事後学習/Reviewing ハンドアウトで復習しておく。
授業方法/Method of instruction
区分/Type of Class 対面授業 / Classes in-person
実施形態/Class Method 通常型 / regular
補足事項/Supplementary notes授業ではパワーポイントを使用します。教材資料はスライドの縮小版をPDF化し,事前にCourse Powerで配布します。授業形態は初回の授業をオンデマンド型のオンライン授業とし、それ以降は対面授業(通常型)で実施します。授業形態を変更する場合には事前に授業内やCoursePowerで通知します。質問等については、授業中またはCoursePowerの質問機能などで受け付けます。またレポートの提出にあたっては、CoursePowerを用いての提出とします。
活用される授業方法/Teaching methods used
成績評価方法/Evaluation
1 レポート Report 45% 学期末に総まとめに相当するレポート(800字程度)の課題を授業中に提示します。このレポートの内容から評価します。
2 平常点 In-class Points 35% 小レポート(400字程度)を4回程度、授業中に課題を提示します。レポートの内容、そして提出状況から評価します。
3 その他 Others 20% CoursePowerの「学びチャート」における積極性、継続性、計画性から評価します。
参考書/Reference books
 著者名
Author
タイトル
Title
出版社
Publisher
出版年
Published year
ISBN価格
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コメント
Comments
 
1 水ノ江和同 入門 埋蔵文化財と考古学 同成社 2020 9784886218520 1,700 著者の文化庁在籍時の経験を踏まえた記述も多く、埋蔵文化財を身近に感じてもらえる、入門書としては最適な一冊だと思います。
2 水ノ江和同 実践 埋蔵文化財と考古学 同成社 2021 9784886218810 1,800 埋蔵文化財について、再発掘、再評価、保存と活用、世界遺産など、さまざまな視点から光をあて、その意味や意義について解説しています。また埋蔵文化財と考古学の関係についても触れています。
3 文化庁文化財部記念物課監修 『定本 発掘調査のてびき』 同成社 2016 9784886217424 8,000 全国各地で行われる発掘調査の標準化を図るために編集され、3分冊の大部なものです。埋蔵文化財行政の基本理念を踏まえて、発掘作業、整理作業等から発掘調査報告書の刊行に至るまでの方法と手順、そして各種遺跡ごとの調査方法について具体的に示し、理論的な内容が盛り込まれています。
メッセージ/Message
遺構図や地形図を適宜参照するので、図から三次元の状況を具体的にイメージできるようにしておいてください。
参考文献は一覧をCoursePowerにPDFデータで掲示しておきます。必要に応じて参考にしてください。
身近な調査機関等(埋蔵文化財センターや調査事業団等)で構わないので、それらのホームページを適宜参照し、内容を確認しておいてください。
【例】
文化庁HP(ホーム →政策について→文化財→文化財の紹介→埋蔵文化財:https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/maizo.html
奈良文化財研究所HP:https://www.nabunken.go.jp
その他/Others
対面授業では、毎回、出席を取ることを予定しています。
キーワード/Keywords
埋蔵文化財     考古学     遺跡     文化財保護法